神戸大学工学研究科電気電子工学専攻の喜多隆教授と朝日重雄特命助教らの研究グループは、これまでにない新しい太陽電池セル構造を提案し、従来はセルを透過して損失となっていた波長の長い太陽光のスペクトル成分を吸収して変換効率を50%以上にまで引き上げることができる技術を開発しました。

この研究成果は、4月6日 (日本時間18時) に英国科学雑誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究の背景

従来の単接合太陽電池の変換効率の理論限界は30%程度であり、入射する太陽光エネルギーの大半が太陽電池セルに吸収されずに透過するか、あるいは光子の余剰エネルギーが熱になるなどして利用されていません。このような大きな損失を抑制して変換効率限界を引き上げることができる様々な太陽電池セル構造の提案・実証が世界中で精力的に行われています。現在のワールドレコードは4接合太陽電池で46%です。太陽電池の変換効率が50%を超えると発電コストは大幅に下がり、2030年にわが国が目標とする発電コスト7円/kWhが実現できます。

研究の内容

喜多教授らは、大きな透過損失を効果的に抑制するため、異なるバンドギャップの半導体からなるヘテロ界面を利用した太陽電池を透過するエネルギーの小さな2つの光子を用い、光電流を生成する新しい太陽電池セル構造を開発しました。変換効率が最大で63%となる理論予測結果を示すとともに、この太陽電池セルのユニークなメカニズムである2光子によるアップコンバージョン(エネルギー昇圧)の実験実証に成功しました。実証された損失抑制効果は、これまでの中間バンドを利用した方法に比べて100倍以上にも達しており、その有効性が明らかになりました。

(図1) ヘテロ界面を利用した太陽電池構造と2光子(図中の黄色と赤の矢印)のアップコンバージョンの様子

半導体1だけだと本来は透過するような赤矢印や黄色矢印の光が吸収されて電流を大幅に増加させる。

(図2) 変換効率の理論予測

ヘテロ界面を形成する2つの異なるバンドギャップの変化に応じて効率が変化する。最大変換効率は63%。

今後の展開

今後、最適な材料を利用した太陽電池セル構造の設計を進め、変換効率に係る性能評価を進めることで、発電コストを大幅に引き下げることができる新しい超高効率太陽電池としての応用が期待されます。

謝辞

本研究はNEDO高性能・高信頼性太陽電池の発電コスト低減技術開発・革新的新構造太陽電池の開発における超効率・低コストⅢ‐V化合物太陽電池モジュールの研究開発において実施されました。

論文情報

タイトル
Two-step photon up-conversion solar cells
著者
Shigeo Asahi, Haruyuki Teranishi, Kazuki Kusaki, Toshiyuki Kaizu, and Takashi Kita Department of Electrical and Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Kobe University
掲載誌
Nature Communications

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