サイトメガロウイルス

 胎児感染を起こし、乳幼児に難聴、精神や運動の発達障害などの後遺症を残す原因となる。

 最近、症候性の先天性サイトメガロウイルス感染症児に対し、早期に抗ウイルス薬を投与することで難聴や精神発達の遅れが改善できることが相次いで報告され、先天性感染児を出生早期に見つけ出すことの重要性が増している。

ポイント

  • ・これまで有効な治療法がなかったために、現在のところ全妊婦や全新生児を対象としたスクリーニングは推奨されていない。
  • ・先天性サイトメガロウイルス感染児は、ほとんどが妊娠中に初感染を起こした母親から出生すると考えられている。
  • ・一般的に用いられている抗サイトメガロウイルス免疫グロブリン(Ig)M抗体※2検査より初感染の診断精度が高いとされるIgG※2アビディティー検査※4を用いたスクリーニング法を世界で初めて全妊婦を対象に実施した。先天性感染の発生予測における有用性を検証したが、期待に反し、従来のIgM検査を用いたスクリーニング法と予測効率は同等であった。
  • ・先天性サイトメガロウイルス感染児は妊娠中に初感染を起こした母親よりも慢性感染状態であった母親から多く発生していた。そのため、これまでの妊婦の血清学検査では見落としが多く出てしまう危険性がある。

研究の背景

 サイトメガロウイルス (CMV) は胎児感染を起こし、乳幼児に難聴、精神や運動の発達障害といった重い後遺症を残す原因となる病原体として注目されている。日本でも年間1,000人の先天性感染症児が生まれていると推定されており、大きな問題となっている。

 しかし、現在のところ、有効なワクチンや胎児・新生児に対する治療法がないために、全妊婦を対象とした血液検査などによる先天性CMV感染のスクリーニング※1は世界的にみても推奨されていない。一方、最近になって先天性CMV感染による症状を持って生まれて来た児 (症候性感染症児) に対し、早期に抗ウイルス薬で治療を行うことで難聴や精神発達の遅れが改善出来ることが分かって来た。したがって、出産時に先天性感染児を正確に見つけ出すことの重要性が増している。

 現在の常識として、先天性感染はCMVに対する抗体を持たない妊婦が妊娠中に初めてCMVに感染 (初感染) した場合に発生するのが一般的と考えられている。そのため、妊娠中の初感染を診断する検査である抗CMV免疫グロブリン (Ig) M抗体※2検査がスクリーニングのための検査として広く用いられている。しかし、CMV IgM抗体は初感染から数年たっても陽性が持続する場合があり、CMV IgM抗体が陽性であっても、必ずしも初感染とは限らない。そこで、初感染をより正確に診断可能なCMV IgG※3アビディティー検査※4が用いられている。

 初感染の診断精度がCMV IgM抗体よりも高いと考えられるCMV IgG アビディティー検査を全妊婦対象のスクリーニング法に応用することで、これまで広く用いられてきたCMV IgM抗体検査によるスクリーニング法よりも効果的に先天性CMV感染児を見つけ出せる可能性がある。

 そこで、我々は、世界で初めて、CMV IgGアビディティー検査を用いた妊婦CMVスクリーニングの有効性を明らかにするために今回の研究を行った。

研究の内容

 本研究グループは、神戸大学を受診した妊婦のうち、もともと先天性CMV感染発生のハイリスクであるCMV IgM抗体陽性を理由とした紹介例や他施設で分娩した妊婦を除く2,193人を解析対象とした。対象症例に対し、妊娠22週までにCMV IgG抗体検査を行い、IgG抗体陰性の場合には妊娠中にCMVに感染しないように教育した上で、妊娠34~36週にIgG抗体検査を再度行った。再検査でIgG抗体が陽性に転じた場合 (陽転化) には妊娠中の初感染と判断した。CMV IgG抗体が陽性であった妊婦に関しては、CMV IgGアビディティー検査を行った。アビディティー・インデックス (AI) が45%以下の場合には、CMV IgM抗体検査、CMV抗原検査などの検査を追加した。AIが45%以下であった妊婦のうちで、AIが35%未満もしくはCMV IgM抗体陽性であれば、妊娠中の初感染と判断した。AIが45%超の場合には、慢性感染 (妊娠前の感染)と判断した。そして、従来のCMV IgM検査を用いたスクリーニングの診断効率と比較するために保存しておいた血液中のCMV IgM抗体を分娩後に測定した。2,193人のうち先天性CMV感染児は10人発生した。妊娠中に初感染を起こしたと判断された妊婦は、CMV IgG抗体の陽転化5人とAI35%未満もしくはAI45%以下かつIgM抗体陽性88人の合計93人であり、そのうち3人に先天性感染児 (症候性1人、無症候性2人) が発生した (図)。一方、AI45%超かつIgM陰性で慢性感染と判断された1,287人から7人 (症候性3人、無症候性4人) の先天性感染児が発生した。アビディティー検査を用いた妊婦スクリーニングの検査精度は、感度22.2%、特異度95.0%、陽性的中率2.5%、陰性的中率99.5%であり、従来のIgM抗体検査を用いたスクリーニングの検査精度 (感度11.1%、特異度93.2%、陽性的中率0.9%、陰性的中率92.7% ) と同等であった。

 また、注目すべきことに、従来の妊娠中の初感染妊婦を先天性感染発生のハイリスクとする考え方のスクリーニング法では、先天性感染10人中3人しか予測出来ず、逆に、より多い7人の見落としが生じることが分かった。

図. 血清学的検査と先天性サイトメガロウイルス感染児発生との関係

今後の展開

 妊娠中のCMV初感染を診断し、先天性CMV感染のハイリスク妊婦を同定しようとするスクリーニング法では、慢性CMV感染の再活性から生じる先天性感染児を見落としてしまう。

 これまで、症候性感染症はほぼ全てが妊娠中の初感染から生じると考えられていたが、慢性感染の妊婦からも相当数生じることが明らかになった。出生時に先天性感染児を見落としなく同定するためには、血清学的検査による先天性CMV感染症の妊婦スクリーニング法には限界があり、全新生児を対象とした尿CMV PCR検査を用いた新生児スクリーニング法などへ発想転換していく必要があると考えられる。そうすることで罹患児を早期に発見・治療することが可能になり、本疾患に苦しむ子供たちを減らせることが期待される。

用語解説

  • ※1 スクリーニング: ふるいわけ。特に健康な人も含めた集団から、目的とする疾患に関する発症者や発症が予測される人を選別する医学的手法をいう。
  • ※2 CMV IgM抗体: CMVに初感染後、1~2週間程度で産生が開始され、2~3ヶ月で消失する。したがって、IgM陽性の場合には、3ヶ月以内の初感染が示唆される。しかし、初感染後、数年間IgMが陽性となる場合が有る。
  • ※3 CMV IgG抗体: CMVに初感染後、IgM抗体に遅れて産生され、終生、陽性となる。CMV IgG抗体が陰性から陽性に変化した場合 (陽転化) には、初感染と診断できる。CMV IgM抗体陰性かつIgG抗体陽性であれば、慢性感染と判断される。
  • ※4 CMV IgGアビディティー検査: CMV IgG抗体のCMVに対する結合力が感染成立後の時間経過に伴って強くなることを利用した検査。感染初期には結合力が弱いために、結合力を示すアビディティー・インデックス (AI) は低値となる。逆に慢性感染では、IgG抗体のウイルス抗原に対する結合力が増すためにAIは高値となる。IgM抗体検査で陽性となった場合に、初感染を診断するための補助検査として使用される。

論文情報

・タイトル
Universal screening with use of IgG avidity for congenital cytomegalovirus infection
DOI:doi.org/10.1093/cid/cix621

・著者
Kenji Tanimura, Shinya Tairaku, Ichiro Morioka, Kana Ozaki, Satoshi Nagamata, Mayumi Morizane, Masashi Deguchi, Yasuhiko Ebina, Toshio Minematsu, Hideto Yamada

・掲載誌
Clinical Infectious Diseases

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