地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS 注1)の一環として、神戸大学大学院農学研究科の杉本幸裕教授の研究グループは、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの岡本昌憲助教らとの共同研究により、サブサハラアフリカ地域で食糧生産に甚大な被害をもたらしている根寄生雑草Striga hermonthica(ストライガ 注2)が、高い蒸散 注3 を維持するために特異なタンパク質を持っていることを発見しました。ストライガは宿主から吸い上げて自身に向かう蒸散流によって養水分を収奪していると考えられることから、このタンパク質はストライガ防除方法の開発に向けた新たな標的になると期待されます。

 この研究成果は、2月26日(日本時間)に、国際学術雑誌「Nature Plants」に掲載されました。

ポイント

  • ストライガはサハラ砂漠以南のアフリカで食糧生産を阻害する深刻な生物的要因である。
  • ストライガは活発に蒸散を維持することで宿主の養水分を奪って生育する。
  • 気孔を閉鎖して蒸散を低下させる植物ホルモン「アブシシン酸(ABA)注4」の働きがストライガでは欠落していることを発見し、その原因が脱リン酸化タンパク質の一つShPP2C1であることを突き止めた。
  • 本研究成果は、ストライガの養水分収奪において重要な役割を担うShPP2C1が新たなストライガ防除方法開発の標的になる可能性を示している。 

研究の背景

 ストライガはサハラ砂漠以南のアフリカを中心に分布する寄生植物です。トウモロコシ、ソルガム、ミレット、イネ、コムギなど主要なイネ科作物の根に寄生し、宿主から養水分を収奪して生育します。アフリカではストライガによる農業被害が年間一兆円にも達すると推定されています(図1)。ストライガは葉から盛んに蒸散することで、地下の結合部を通して宿主から養分や水分を吸い上げると考えられます(図2)。乾燥条件下で、植物は一般に水分損失を抑えるために蒸散を抑制しますが、ストライガは高い蒸散を維持します。そのため、乾燥した地域ほど効率的に宿主から養水分を奪い取ることができます。しかし、ストライガが高い蒸散を維持できるメカニズムは明らかになっていませんでした。

図1: ストライガの被害が深刻なソルガム畑(スーダン)
図2: ストライガの養水分収奪モデル

研究の内容

図3: ABA受容機構の模式図

 植物は乾燥ストレスにさらされると「アブシシン酸 (ABA)」という植物ホルモンを合成し、これをシグナルとして気孔を閉鎖し蒸散を低下させることで、乾燥ストレスに抵抗性を示します。本研究グループは、まず、ストライガのABA合成能力およびABA応答について調べました。その結果、ストライガの葉はABAを高濃度に蓄積しており、外部からABAを与えても蒸散がほとんど低下しないことを見出しました。これによりストライガの蒸散が低下しない原因はABAの受容以降の情報伝達の異常にあると考えられました。

 植物のABA情報伝達経路は2C型脱リン酸化酵素(PP2C)注5によって抑制されることが知られています。乾燥に応答して植物体内のABA濃度が高まると、ABAは受容体 (PYL 注6 ) と結合します。ABAを包み込んだ受容体は活性化され、PP2Cの機能を阻害します。これによってABA情報伝達経路の抑制が解除され、蒸散の低下を引き起こします (図3)。

 本研究グループはストライガの複数のShPYL注7およびShPP2C 注7遺伝子を単離し、それらの機能を解析しました。その結果、単離したすべてのShPYL受容体の機能はいずれも正常であるのに対し、4種単離したShPP2C (1~4) のうち、ShPP2C1はABAとPYLの存在下でもABA情報伝達を抑制し続ける機能があることを見出しました (図3)。またShPP2C1は他の植物のPP2Cには認められない特徴的なアミノ酸変異を持っていました。そこでモデル植物であるシロイヌナズナ注8の正常なPP2CのひとつAtABI1注7のアミノ酸配列の一部をShPP2C1様に変化させた(AtABI1 5 mutations)ところ、PYLによる阻害を受けにくい性質を付与することができました。このShPP2C1とAtABI1 5 mutations 遺伝子をシロイヌナズナに形質転換するとABA感受性が低下し、乾燥条件でも蒸散が低下しにくくなりました (図4)。


図4: 各遺伝子の導入が蒸散に与える影響
上段: サーモグラフィー写真。蒸散しているほど温度が下がり青く見える。
下段: 遺伝子導入株は給水を止めると蒸散が止まらず枯死してしまう。

 以上の結果から、PP2Cの数ヶ所のアミノ酸変異をきっかけにPP2Cの性質が変化したことで、ストライガはABA感受性を低下させ、乾燥条件でも高い蒸散を維持できるようになったと考えられます。

 陸上植物は水分条件が絶えず変動する環境を生き抜くためにABA情報伝達機構を獲得・維持しています。しかし、ストライガは寄生生活に適応する過程でこの伝達機構を喪失し独自の養水分収奪方法を獲得したと考えられます。

今後の展開

 本研究成果はストライガの養水分収奪においてShPP2C1が重要な役割を担っていることを示唆しており、この分子を標的とした新たなストライガ防除方法の開発が可能となることを示しています。ShPP2C1の機能を抑えることができれば、ストライガのABA応答を回復させ、養水分収奪能力を低下させられると期待されます。今後、ShPP2C1の構造をより詳細に解析することで、ShPP2C1の機能を抑える薬剤の開発が展望できます。

用語解説

  • 1. SATREPS
     地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS、サトレップス) とは、国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST)、独立行政法人 国際協力機構 (JICA) の連携により、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3~5年間の研究プログラム。日本国内など、相手国内以外で必要な研究費についてはJSTが委託研究費として支援、開発途上国内で必要な経費については、JICAが技術協力プロジェクト実施の枠組みにおいて支援する。国際共同研究全体の研究開発マネジメントは、国内研究機関へのファンディングプロジェクト運営ノウハウを持つJSTと、開発途上国への技術協力を実施するJICAが協力して行う。
  • 2. Striga hermonthica (ストライガ, Giant witchweed)
     サハラ砂漠以南のアフリカに広く分布する寄生雑草の一種。これらの地域の主要作物であるソルガム、トウモロコシ、ミレットなどの根に寄生し、収量を大幅に低下させる。“魔女の雑草”とも呼ばれ、0.2 mm程度の小さな種子を一個体が何万粒も生産するため、いったん耕作地に侵入すると駆除することは極めて困難である。アフリカの食糧生産を阻害する最大の生物的要因であり、被害は拡大の一途を辿っているため、防除方法の確立が喫緊の課題となっている。
  • 3. 蒸散
     植物体内の水分が気孔と呼ばれる小さな穴(数µm (マイクロメートル) 程度)から水蒸気として排出される現象。植物体内の水の約90%は、この小さな穴を通じて失われる。これにより植物の根から地上部に向けての水の流れが形成され、根が土壌から水分を吸収する際の推進力となる。
  • 4. アブシシン酸 (アブシジン酸やabscisic acidを略してABAとも表記される)
     植物が乾燥時に生合成する植物ホルモンの一種。種子や芽の休眠、蒸散の低下など、植物の環境ストレスに対する耐性を高める作用を有する。陸上植物はABAの生合成および情報伝達経路を保有しているとされ、植物の陸上進出に必須の物質であると考えられている。
  • 5. 2C型脱リン酸化酵素 (Protein phosphatase 2C; PP2C)
     タンパク質からリン酸を取り除く反応(脱リン酸化)を触媒する酵素群の一つ。一部のタンパク質はリン酸化-脱リン酸化によって機能が調節されることから、脱リン酸化酵素はタンパク質のスイッチとしての役割を持つ。ABAの情報伝達に関わるPP2Cは下流のABA情報伝達タンパク質を脱リン酸化することで機能を抑制する。モデル植物であるシロイヌナズナには約80種類のPP2Cが存在し、その内9種類がABAの情報伝達に関わる。本研究ではストライガから単離した4種のPP2Cのうち、ShPP2C1がABA受容体の制御を受けず、常にABAの情報伝達を負に制御していることを明らかにした。
  • 6. Pyrabactin resistance like protein (PYL)
     植物のABA受容体タンパク質。ABAを受容することで構造が変化し、PP2Cと結合できるようになる。PYLの結合によってPP2Cは脱リン酸化酵素としての機能が阻害されるため、ABA情報伝達経路が活性化する。
  • 7.ShPYL, ShPP2C, AtABI1
     ShPYLとShPP2CのShはストライガの学名Striga hermonthicaのイニシャルであり、ストライガのPYLとPP2Cを意味する。AtABI1のAtはシロイヌナズナの学名Arabidopsis thalianaのイニシャルであり、複数存在するAtPP2Cのなかの1つ。AtABI1はABAのシグナル伝達の研究で、古くから研究知見が蓄積している。
  • 8.シロイヌナズナ
     植物研究において最も広く用いられているモデル植物。遺伝子組換えによって外来の遺伝子を導入する方法が確立されているため、他の植物の遺伝子を組み込んで、植物体内でどのような機能を持つのか調べる際に用いることができる。

謝辞

 本研究は国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST)、独立行政法人 国際協力機構 (JICA) 連携プログラム地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS)「ストライガ防除による食料安全保障と貧困克服」(研究代表者:杉本幸裕)、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「フィールドにおける植物の生命現象の制御に向けた次世代基盤技術の創出 (研究総括:岡田清孝)」における研究課題「化学遺伝学的手法を利用した乾燥ストレス適応型作物設計」(研究者:岡本昌憲)、日本学術振興会 (JSPS) 二国間交流事業 共同研究 (研究代表者:杉本幸裕)、 JSPS科学研究費「稲作に対する根寄生雑草ストライガの脅威の検証と抵抗性・耐性機構の解明」(研究代表者:杉本幸裕)、「化学遺伝学的手法によるアブシジン酸シグナル伝達機構の解明」(研究代表者:岡本昌憲)、鳥取大学乾燥地研究センター共同研究 (研究代表者:杉本幸裕) 等の支援を受けて行ったものです。

論文情報

・タイトル
Aberrant protein phosphatase 2C leads to abscisic acid insensitivity and high transpiration in parasitic Striga
DOI: 10.1038/s41477-019-0362-7

・著者
Hijiri Fujioka, Hiroaki Samejima, Hideyuki Suzuki, Masaharu Mizutani, Masanori Okamoto, Yukihiro Sugimoto

・掲載誌
Nature Plants

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