水理学は難解であるという声をしばしば耳にする。それは恐らく理論や公式の導出背景に対する理解不足からくるものではないだろうか。水理学ではごく少数の基本的な物理法則とそれにもとづく方程式が根幹にあり、管路流、開水路流、波など対象とする現象は異なっても、もともとの法則や基礎方程式は常に同じである。現象に応じて適用条件を考え、例えば非粘性や非回転などを仮定した簡略化や、区間長が短くエネルギー損失が無視できるとか、重力 (圧力勾配) と摩擦力の釣り合いが支配的であるとかという仮定を設けることで方程式が簡略化され、流れをマクロにとらえることが可能となる。水理公式集を開けば実に多種多様な公式が掲載されているが、初学者がするべきことはそれらを逐一暗記することではない。これらの公式は工学的、実用的に優れたものも多いが、その大多数は時代とともに新たなものに淘汰されて消えていく。しかしながら、理論に裏打ちされた公式は数100年にわたって生き長らえる。したがって初学者がするべきは、根本となる理論、その簡略化の手順、事項間の関連を理解することである。そのためには、少々煩雑な数式展開を避けて通ることはできない。
本書では、基礎方程式の導出方法やその解法については可能な限り途中の式も端折らずに記し、ベクトル解析や微分積分などに関する基礎的な定理なども紙面の許す限り記載することで理解の助けとなるよう心がけた。また、専門科目への接続性についても配慮し、水理学の身近な応用例として、洪水流、海の波、長周期波 (津波、高潮など)、海の流れなどについても論述した。特に最後の二項目は従来の水理学の入門書で取り扱われることはほとんどなかった。海岸工学、河川工学、ひいては地球物理学や地球環境科学への橋渡しの一助となれば幸いである。
工学研究科・准教授 内山雄介