環境に関する教育研究とトピックス [環境に関する教育]

津波から海洋環境を守る:津波マリンハザード研究への取り組み

南海トラフ地震が30年以内に約70%の確率で発生し、巨大津波が太平洋沿岸地域に襲来すると報告されています。現在までに、津波による陸上建築物の損壊や水田や畑地における塩害といったさまざまな被害を減災する研究が進んでいます。しかし、それらの研究に比べて、津波による海洋環境・生態系の減災研究は多くありません。2011年の東日本大震災の津波により、海底泥が巻き上げられ、赤潮が発生し、魚の養育場となるアマモ場が壊滅するなど多くの報告があります。津波によって沿岸域の海洋環境・生態系が危険に晒されることは明らかです。このような危険性を“津波マリンハザード”の一つと捉え、その減災策を研究しています。減災策には、単に被害の最小化だけでなく、被災からの回復、つまりレジリエンスと呼ばれる要素が不可欠です。本研究講座では、大阪湾を実験対象海域として、津波マリンハザード評価手法の開発と、レジリエントな減災策を創出することを最終目標としています。

巨大津波が大阪湾に侵入した場合、どのような海洋環境変化が現れるのかを津波シミュレーションに基づいて調べています。例えば、図1左は大阪湾における海底泥の巻き上げ分布の推定結果です。大阪湾の西部ではほぼ巻き上げが発生しないこととは対照的に、東部では巻き上げが発生します。特に淀川河口域付近では顕著な巻き上げが発生し、まさに巻き上げ“ホットスポット”です。海底泥には水銀や亜鉛などの重金属が高濃度で蓄積されています。ホットスポットにおける海底泥が津波により巻き上げられ重金属が一気に海洋中に放出されて海洋環境汚染が深刻化する可能性も考えられます。

津波による沿岸水域の環境の塩害も深刻です。河口域は汽水性の生物が多く、海水に晒されると生きられない生物もいます。計算結果によると、大阪湾東部の湾奥や淀川河口域では塩分が最大で10も増加する計算結果となり(図1右)、汽水性生態系に与える影響が懸念されます。

津波による海洋環境被害を検証・推定する手法の開発は発展段階です。今後、その被害総額の推定手法も確立することが急務です。2014年3月の国連防災会議パブリックフォーラムでは、防災と環境研究を両立した津波マリンハザード研究の重要性を訴え、被害推定手法について有識者らと議論を交わしました。今後もこのような議論の場を設けて、一刻も早く実用的な減災策を発信していきたいと考えています。

  • 図1 沿岸水域における津波による巻き上げ(左)と塩水化分布の計算結果(右)

    図1 沿岸水域における津波による巻き上げ(左)と塩水化分布の計算結果(右)