岡山大学資源植物科学研究所坂本亘教授と高見常明技術専門職員、神戸大学大学院理学研究科の三村徹郎教授、広島大学大学院理学研究科の草場信教授らの研究グループは、細胞内のDNAが自己分解され、リンの栄養分として再利用される生命現象を明らかにしました。

 植物の光合成を行う葉緑体や呼吸をつかさどるミトコンドリアは、太古の昔に細胞内共生[1]により獲得した、バクテリア由来のオルガネラDNA[2]をたくさん持っています。これらの、一見不要と思われる過剰のDNAは、リン栄養が欠乏した状態になると積極的に分解され、再利用されていることが今回の研究で明らかになりました。

 リンは植物の三大栄養素の一つで、21世紀にはリン肥料の枯渇や水質汚染が懸念されています。本研究成果により、DNA分解を介したリン酸利用効率の向上性が分かり、これらの知見を用いて養分利用を改善させた作物の改良にも結びつくことが期待されます。

 この研究成果は、11月12日英国時間午後4時(日本時間13日午前1時)に英国の科学誌「Nature Plants」誌で公開されました。

ポイント

  • リン (P) は植物の三大栄養素の一つであり、肥料にも使われている一方、リン肥料の枯渇や水質汚染が懸念されています。
  • 坂本教授らの研究グループは、シロイヌナズナとポプラを用いて、細胞内のオルガネラDNAが分解され、リンの再利用に使われていることを解明。
  • オルガネラDNAの量をコントロールすることで、リン利用効率が向上した作物の育成につながることが期待されます。

現状

リン鉱石の枯渇・環境汚染が懸念されている

 植物は光合成により大気中の二酸化炭素を固定して有機物を作りますが、窒素(N)やリン(P)、カリウム(K)などの養分は、ヒトや動物のように外部から吸収して利用します。N、P、Kは植物の三大栄養素として肥料にも使われます。

 細胞内でリン(有機リン)はリン酸として利用されており、リン酸を最も多く含む物質はDNAやRNAなどの核酸です。DNAは親からの遺伝情報を受け継ぐ遺伝物質として広く知られていますが、ヌクレオチドとしてリン酸を多く含むことから、分解して再利用すれば有効だと考えられます。多くの生物でDNA分解機能が広く知られている一方で、DNA分解は細胞死を招くため、リン栄養との関連についてはよく分かっていませんでした。

 

研究成果の内容

 坂本教授と高見技術職員らの研究グループは、地球上で生命が誕生後、今から約15億年前にバクテリアの細胞内共生[1]により細胞に生じた小器官であるミトコンドリアと、葉緑体が持つオルガネラDNA[2]に注目しました。オルガネラDNAは、共生バクテリアから受け継いだDNAですが、植物の葉などではDNAを必要以上にたくさん持っています。一見、不要と思われる過剰のDNAですが、植物の葉ではこれらのオルガネラDNAが、DPD1ヌクレアーゼという分解酵素で分解され、リンの再利用に使われていることを、モデル実験植物であるシロイヌナズナ[3]と、葉が落葉するポプラを用いて明らかにしました。太古の昔に植物が共生によって獲得したDNAを、葉緑体にたくさん維持する理由が長らく謎でしたが、本研究成果により、これらのDNAが遺伝物質としてだけでなく、リン栄養としても機能していることがわかりました。


DPD1ヌクレアーゼ=オルガネラDNAを分解する酵素を発見

社会的な意義

 ワトソンとクリックが1953年にDNAの二重らせん構造を解明し、DNAが遺伝情報物質と分かり、現在ではDNAの研究があらゆる分野で進んでいます。DNAは、実はこの発見に遡る1860年代にドイツ・チュービンゲン大学の化学者フリードリヒ・ミーシャーにより初めて単離されています。ミーシャーは、DNAがタンパク質とは異なり多量のリンを含む物質であることを見つけ、リンの細胞内貯蔵に関わる可能性を述べていますが、遺伝子の研究が進み、リン貯蔵については調べられてきませんでした。今回の研究は、細胞内共生により維持される植物のDNAについて、このようなリン貯蔵の機能があることを科学的に示した意義ある成果といえます。

 リン肥料は、主に天然のリン鉱石から作られますが、21世紀になりリン鉱石の埋蔵量が懸念され、今世紀中に枯渇するのではとも危惧されています。今回の研究により、葉緑体におけるDNAとリン再利用の関係が明らかとなったので、オルガネラDNA量をコントロールすることでリン利用効率の向上した作物の育成にもつながることが期待されます。

研究資金

 本研究は、日本学術振興会科学研究費(基盤研究Bおよび新学術領域研究)、公益社団法人大原奨農会の研究助成により行われました。

補足・用語説明

  • [1] 細胞内共生説:
    真核細胞の祖先となる細胞が、別のバクテリアを共生体として取り込み細胞小器官のミトコンドリアと葉緑体ができたとする説。
  • [2] オルガネラDNA:
    真核生物の細胞核の外の細胞小器官(オルガネラ)に含まれるDNA。
  • [3] シロイヌナズナ:
    アブラナ科の小型雑草で学名はArabidopsis thaliana。世代期間が短く種子をたくさんつけるために世界中で植物研究に使われている。また遺伝情報(ゲノム)が小さく、解明済みであり、遺伝子の研究に適している。

論文情報

・タイトル
“Organelle DNA degradation contributes to the efficient use of phosphate in seed plants”
doi: 10.1038/s41477-018-029

・著者
Tsuneaki Takami, Norikazu Ohnishi, Yuko Kurita, Shoko Iwamura, Miwa Ohnishi, Makoto Kusaba, Tetsuro Mimura, and Wataru Sakamoto

・掲載誌
Nature Plants

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