図1. 沖縄本島で発見されたオキナワソウ

 神戸大学大学院理学研究科の末次健司講師、森林総合研究所九州支所の木下晃彦主任研究員 (当時、国立科学博物館・非常勤研究員)、(一財) 沖縄美ら島財団総合研究センターの赤井賢成研究員らの研究グループは、沖縄県の沖縄本島や石垣島の複数地点で未知の光合成をやめた植物を発見し、新たに「オキナワソウ」と命名しました。詳しく検討した結果、この植物は、屋久島固有種であるヤクシマソウに近縁であることから、ヤクシマソウの新変種として発表されました。

 本研究成果は、2月28日に国際誌「Acta Phytotaxonomica et Geobotanica」に掲載されます。

研究の背景

 植物を定義づける重要な形質として「葉緑素をもち、光合成を行う」ことが挙げられます。しかし、植物の中には、光合成をやめてキノコやカビの菌糸を根に取り込み、それを消化して生育するものが存在します。このような植物は、菌従属栄養植物※1と呼ばれます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、花期と果実期のわずかな期間しか地上に姿を現しません。花期や果実期は短く、またサイズも小さいものが多いため、見つけることが非常に困難です。日本は、植物の戸籍調べが世界でも最も進んでいる地域であり、新種の植物の発見は、年に数件しかありません。その中で、光合成をやめた菌従属栄養植物は、正確な分布情報が解明されていない例外的な植物群といえます。そこで末次健司講師は、共同研究者とともに、日本国内における菌従属栄養植物の分布の調査と、その分類体系の整理に取り組んでいます。

研究の内容

 研究の一環として行った野外調査において、末次氏とその共同研究者である木下晃彦氏 (森林総合研究所九州支所; 当時、国立科学博物館) と赤井賢成氏 ((一財) 沖縄美ら島財団総合研究センター) は、沖縄本島の北部や石垣島の複数の地点で、未知の菌従属栄養植物を発見しました (図1)。

図2. 沖縄本島のオキナワソウの雌花 (A) と雄花 (B)。
屋久島のヤクシマソウの雌花 (C)と雄花 (D)。
屋久島のホンゴウソウの雌花 (E) と雄花 (F)。

 この植物は、植物体全体が紫色で、植物体の高さは10cm程度、直径1.5mmほどの花をつけます。末次氏を中心に、この植物の形態的特徴を精査した結果、この植物は、ホンゴウソウ属の植物で、雌花の花柱が棍棒状で多数の突起をもつ点で (図2A)、ホンゴウソウそのものとは異なり (図2E)、屋久島固有種であるヤクシマソウ (図2C) と近縁であることがわかりました。その一方で、ヤクシマソウは地上部全体が黒紫色であるのに対し、沖縄で新たに発見されたこの植物は赤紫色である点、ヤクシマソウは植物体の高さが5㎝程度であるのに対し、この植物は、10㎝を超えるものも見られること、ヤクシマソウは雄花の花糸が葯の高さを超えない (図2D) のに対し、ホンゴウソウ (図2F) と同じくこの沖縄の植物は、雄花の花糸 (図2B) が葯の高さを超える点から、ヤクシマソウとも区別できることがわかりました。

 また博物館に収められた標本を確認したところ、沖縄本島や石垣島で採取されホンゴウソウと同定されていた標本の多くが、今回発見された個体と同一分類群であることがわかりました。つまり、沖縄本島や石垣島では、ホンゴウソウそのものよりも、今回発見されたもののほうが良く見られるものの、ホンゴウソウと混同され、その実態が認識されていなかったことがわかりました。ホンゴウソウの仲間は、三重県本郷村で発見されたホンゴウソウや屋久島で発見されたヤクシマソウのように「地名」+「草」で命名されるのが一般的です。そこで沖縄県で最も普通に見られるホンゴウソウ属であることから、新たに「オキナワソウ」と命名しました。上述の通り、オキナワソウは、ヤクシマソウやホンゴウソウと顕著な形態的差異が認められました。その一方、DNA分析の結果、オキナワソウは、ホンゴウソウとは遺伝的に分化しているものの、ヤクシマソウとの遺伝的差異は認められませんでした。他のDNA領域も検討すれば、差異が認められる可能性は十分ありますが、この結果は、オキナワソウとヤクシマソウは分化してそれほど時間が経過していないことを示唆しています。そこで、新種ではなく、ヤクシマソウの種内分類群として、新変種「Sciaphila yakushimensis Suetsugu, Tsukaya & H.Ohashi var. okinawensis Suetsugu」として発表しました。

発見の意義

 菌従属栄養植物は、森の生態系に入り込み、寄生する存在です。このため生態系に余裕があり、資源の余剰分を菌従属栄養植物が使ってしまっても問題のない安定した森林でなければ、菌従属栄養植物が生育することはできません。つまり菌従属栄養植物が存在するという事実は、肉眼では見えませんが、キノコやカビの菌糸の豊かなネットワークが地下に広がっていることを意味しています。かつて博物学者の南方熊楠も、ホンゴウソウなどの光合成をやめた植物が生える場所こそ森の聖域であると述べ、その環境の貴さを訴えました。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた光合成をやめた植物の発見は、沖縄本島の北部や石垣島に広がる照葉樹林の重要性を改めて示すものです。

用語解説

  • ※1:菌従属栄養植物
    光合成能力を失い、キノコやカビから養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、コルシア科、タヌキノショクダイ科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種が報告されている。

論文情報

・タイトル
“A New Variety of the Mycoheterotrophic Plant Sciaphila yakushimensis from Okinawa and Ishigaki Islands, Japan”

・著者
KENJI SUETSUGU, AKIHIKO KINOSHITA, KENSEI AKAI

・掲載誌
Acta Phytotaxonomica et Geobotanica

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