神戸大学大学院人間発達環境学研究科の蘆田弘樹准教授は、奈良先端科学技術大学院大学の橫田明穂名誉教授、大阪大学工学研究科の溝端栄一講師らとの共同研究により、生物の光合成能力差に大きく影響を与える、CO2固定酵素ルビスコ※1のCO2識別能力に活性部位※2表面の電荷分布が関与していることを明らかにしました。これまで、ルビスコのCO2識別能力が光合成生物によって多様であることが知られていましたが、その原因を明らかにしたのは本研究が世界で初めてです。

 今後、本研究成果により、ルビスコのCO2固定能が改良され、植物の光合成能力向上、食料の増産や低炭素化などへ応用されることが期待されます。

 本研究成果は、2月28日発行の国際誌「Biochemical Society Transactions」2月号に掲載されました。

ポイント

  • ルビスコはCO2の固定化を触媒する、光合成において非常に重要な鍵酵素である。
  • ルビスコのCO2識別能力は光合成生物によって異なり、生物の光合成能力を決定する。これまで、その能力差の原因は不明であった。
  • 世界で初めて、ルビスコのCO2識別能力に活性部位表面の電荷分布が関与していることを明らかにした。

研究の背景

 光合成は、植物、藻類、細菌などが太陽光、水、CO2から糖や炭水化物を作り出す、生物が生きていくためのエネルギー源を合成するために欠かすことのできない営みです。

 ルビスコは、この光合成においてCO2の固定化を触媒する重要な鍵酵素ですが、O2をCO2と誤認識してO2の固定化も触媒してしまうため、CO2識別能力が低く、現地球環境の高濃度O2によって、CO2固定反応は大きく阻害されています。このため、様々な局面でルビスコのCO2固定酵素としての劣悪な性能が植物や藻類の光合成能力を制限しています。興味深いことに、ルビスコのCO2識別能力は光合成生物によって異なり、一定ではありません。

 これら生物の光合成能力の向上を目指してCO2識別能力を高めたルビスコの創成研究が進められてきましたが、ルビスコの機能改良は難しいのが現状です。これまで、ルビスコのCO2識別能力は、光合成生物によって多様であることは知られていましたが、その原因は不明でした。

研究の内容

 ルビスコのCO2識別能力は、シアノバクテリア※3、緑藻※4(クラミドモナス)、植物(イネ)、紅藻※5(ガルディエリア)の順に高くなります。緑藻、植物、紅藻ルビスコのCO2識別能力は、シアノバクテリアのものの約、1.5倍、2倍、6倍の値を示します。

 本研究では、これらのCO2識別能力の違いを生み出す原因を明らかにするために、それぞれのルビスコの立体構造を詳しく解析し、比較しました。特に、ルビスコの活性部位表面の電荷分布を解析した結果、CO2識別能力が低いルビスコでは活性部位表面がマイナスに帯電しており、CO2識別能力が高いルビスコでは電荷がニュートラルになる傾向が明らかになりました。電荷がニュートラルな構造や部位は、O2との結合性が低いことが分かっています。これらのことから、ルビスコの活性部位表面の電荷分布が活性部位近傍でのCO2とO2の相対存在比を決めており、活性部位の表面電荷がニュートラルなルビスコではCO2濃度が相対的に高くなることで、優れたCO2識別能力を示すことが明らかになりました。

図1 様々なルビスコのCO2識別能と活性部位表面の電荷分布

図中のS relは、それぞれのルビスコのCO2識別能力値を示し、この値が高いほどCO2固定反応を優位に進めることができる。表面電荷がマイナス、プラス、ニュートラルな部位をそれぞれ、赤、青、白で示した。下段の図が活性部位の電荷分布を示す。

今後の展開

 これまで、ルビスコのCO2識別能力を改良することで、植物の光合成能力を向上させることができると期待されていたことから、その改良方法を探索する研究が行われてきましたが、どのようなルビスコをデザインしたら良いかは大きな課題のままでした。今回の発見により、CO2識別能力を高めたルビスコの創成が可能となり、今後これを用いて植物の光合成能力を向上させ、食糧増産、低炭素化、代替燃料生産の増産に応用できると期待されます。

用語解説

  • ※1 ルビスコ: 光合成カルビン回路において、CO2の入り口となるCO2固定段階で働く酵素タンパク質。その機能の悪さから、様々な局面で光合成の速度を規定している。
  • ※2 活性部位: 酵素が反応を触媒する場所。
  • ※3 シアノバクテリア: 酸素発生型光合成を行う、原核生物。
  • ※4 緑藻: 緑色植物のうち、陸上植物を除いたものの総称で、真核光合成生物。
  • ※5 紅藻: 紅色植物に属する藻類に一群で、真核光合成生物。

論文情報

・タイトル
Learning RuBisCO’s birth and subsequent environmental adaptation
DOI:10.1042/BST20180449

・著者
Hiroki Ashida, Eiichi Mizohata, Akiho Yokota

・掲載誌
Biochemical Society Transactions

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