人々がどういう理由で物理学に興味を抱き、どうして「場の理論」を学ぼうと志すのか、その経緯は専門家にもよくわからない部分がある。教員でもある(?)著者から見て、ひとつ明らかなことは「場の理論ほど誤解を招き易い学問はない」ということだ。古典場の理論は二百年余、量子場の理論は形成され始めてから百年足らず、実のところ、どうやって教えたら「場というもの」が初学者の頭に入り易いのか、まだまだ試行錯誤が続いているのである。
この本では、主に量子場の理論を扱う。ふつうに物理学を習い進めると、まずは量子力学を学び、その後で量子場を学習する。この順番を「厳守」すると、量子力学でつまずいた人は、量子場に触れる機会を失う。ああ、もったいない。そこで、量子力学も何も知らない読者層を想定して、いきなり量子場の理論から学習を始めるというスタイルで、この入門書をまとめてみた。著者は密かに思っているのだけれども、遠い将来、物理学の教程はこのように「量子場が先、量子力学が後」になるであろう、たぶん。その、未来の雰囲気をお届けできれば幸いである。
なお、私の書いた書物を読んで「西野先生は面白そうな人だ」と思い込んで講義を受けに来ると、大抵は幻滅するのだそうな。書物には好き勝手なことを書き込めるという自由度がある。本という媒体が存在することは、実に良いことだと思う。
理学研究科・准教授 西野友年