環境報告書を読んで

兵庫県立大学副学長 天野明弘

平成16年に制定されたいわゆる環境配慮促進法の規定によって、 神戸大学も国立大学法人として環境報告書を発行することが義務付けられた。一般事業者による自発的な報告書の発行に対しては、 環境省の「環境報告書ガイドライン」が25項目の記載事項を挙げているが、環境配慮促進法の定める特定事業者 (神戸大学もその1つである) は、初めてこのような報告書を作成するところも少なくないという配慮から、7項目に絞った 「環境報告書の記載事項等の手引き」が作成されている。本報告書は、おおむねこの手引きに従って作成されており、 約6ヶ月という短期間にこれだけの内容をまとめられたことに、まず敬意を表したい。

記載項目が25項目から7項目になったとはいえ、環境配慮の方針、主要な事業内容、環境配慮計画、 取組体制、取組の状況、製品等に係る情報、その他、とカバーすべき範囲は広く、本報告書では大学に関係の少ない製品等に係る情報を除き、 それらを漏れなく扱っている。一般の環境報告書であれば、事業活動がもたらす環境負荷の大きさ、それを削減するための取組、 目標達成度、環境負荷削減に要した費用と取り組みにより生じた便益などが報告の中心となるが、大学のような教育研究機関の活動には、 環境問題を原理的に解明し、それを教育する活動や、環境負荷削減のための技術開発、代替物質の開発等、 ポジティブな活動が多く含まれている。本報告書の特徴の1つは、「環境に関する教育・研究と地域」というタイトルで、 大学の教職員や学生が特に環境問題に焦点を合わせた研究・教育・実践活動を通じて行っている環境負荷削減へのアウトプットを紹介していることであろう。 学部・大学院で年間6,900人強の受講生に対して173科目に及ぶ環境関係の講義が行われていることは、 その内容も含めてもっと周知されてよい。

他方、一般の環境報告書と比較すると、環境負荷の認識およびそれを管理し削減する体制や計画の面では、 環境省の懸念どおり見劣りする部分も少なくない。環境管理体制が全構成員を含めて組織化し難いこと、 したがって全学的な環境負荷削減計画を立てたり、さらには数値目標を設定したりするためには、一般事業者以上の努力が必要とされることなどがその理由として考えられる。 しかし、若干でも PDCA のサイクルを組み込んだ計画部分を設け、これらの困難を克服する道を見出すことが、 今後はぜひ必要とされるであろう。

本書の基本理念にも謳われているように、神戸大学は美しい自然を持つ国際都市神戸という恵まれた環境にあり、 すでに環境に関連する多くの教育研究活動を推進する実績を誇っている。自然環境、環境技術、 環境の経済・経営・法的側面等の分野での国際的レベルの研究を基礎として、環境保全のためのアウトプットを高めるとともに、 自らの環境負荷を下げる面での全構成員による取組を進めていただきたい。

天野明弘 兵庫県立大学副学長

天野明弘 (あまの あきひろ) 兵庫県立大学副学長

1958年 神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了、神戸大学経営学部助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、 神戸大学経営学部教授、関西学院大学総合政策学部教授を経て現職。
1963年 ロチェスター大学Ph.D.。
1966年 経済学博士 (大阪大学)。
1988-89年 神戸大学経営学部長。神戸大学・関西学院大学名誉教授。
現在、中央環境審議会臨時委員、兵庫環境審議会会長。