環境に関する教育・研究と地域連携

環境に関する教育

野外植物生態学実習について

人間発達環境学研究科 教授 武田義明

本実習は毎年高山を中心に行っている。普段見ることができないような植生や植物と自然環境との対応関係を直接体験することによって理解してもらうことに主眼を置いている。平成18年度は長野県の霧ヶ峰高原と木曽駒ヶ岳で2泊3日の実習を行った。参加学生は研究室の大学院生、学部学生も含めて10名であった。初日と翌日は霧ヶ峰高原で実習を行った。霧ヶ峰高原は諏訪市に位置し、標高約1500mから1900mであり、亜高山帯に属している。ここには森林が伐採されたことによって形成されたススキの優占する二次草原が広がっており、ニッコウキスゲ、キンバイソウ、ハクサンフウロ、クガイソウなど平地ではみられないような植物を観察することができた。霧ヶ峰には八島湿原、車山湿原、踊場湿原の3つの高層湿原があり、そのうち八島湿原が71.6haで、最も大きい。高層湿原は低温のためミズゴケなどの植物が腐らずに泥炭として堆積し、その上に湿地性の植物が生える。残念ながら湿原内に立ち入ることができず、近くで観察することができなかったが、高層湿原特有の中央部が泥炭の蓄積によって盛り上がっている現象を見ることができた。また、これらの湿原の周辺ではシモツケソウ、チダケサシ、アカショウマ、ヤマドリゼンマイなどの湿地性の植物を観察することができた。

3日目は木曽駒ヶ岳で実習を行い、その日のうちに神戸に戻った。木曽駒ヶ岳は駒ヶ根市と木曽郡上松町の境にあり、標高2956mの山である。1700m付近から2600m付近まではロープウェイで登り、そこから徒歩で山頂まで高山植物を観察しながら登った。ロープウェイからはシラビソやオオシラビソで構成される亜高山針葉樹林帯から低小草原からなる高山帯へと高度が上がるにつれて変わっていくのがよく観察された。高山のような環境の厳しい場所では、わずかな環境の違いによって生育する植物が違ってくる。雪解けが遅くややしめっているような場所では、ミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲ、チングルマなどが生育し、一方、乾燥した場所では、チシマギキョウ、イワツメクサ、ミヤマダイコンソウなどが、小石の多い土壌が安定しない場所ではコマクサが生育している。また、風当たりが強い場所ではウラシマツツジやミヤマクロスゲなどが風衝草原を形成している。これらの環境の違いが植生に大きな影響を与えていることを実際に観察することができた。

八島湿原
写真1 霧ヶ峰八島湿原
木曽駒ヶ岳
写真2 木曽駒ヶ岳の登山風景

「環境資源経済論」について

国際協力研究科 准教授 橘 永久

今回ご紹介するのは、大学院国際協力研究科の「環境資源経済論」です。公害対策や環境評価の方法を勉強する環境経済学の講義と思われそうですが、国際協力研究科の開講科目ということで、いくつか特色があります。まず、通常の環境経済学より「資源」管理の問題に重点が置かれています。資源のなかでも、発展途上国の農村地域で暮らす人々が家畜の餌や薪、日々の糧を依存している森林や沿岸漁場を維持・改善していくための政策を学ぶことが、最大の目標です。第二に、国際協力研究科が制度化した海外フィールドワーク科目との連携があります。海外の現場で、環境資源経済論で学んだ理論を検証するためのデータ収集方法等を実践的に学習します。現在までに、「ラオス山岳地帯での過剰な焼畑問題」、「インドネシアの森林火災と国内移民」をテーマとするフィールドワークを企画してきました。最後に、全て英語での講義という点も特徴として挙げられます。国際協力の舞台で環境が重要なテーマとなって久しいですが、途上国からの留学生の多くにとっては、経済成長や貿易の方がまだまだ重要なテーマです。世界全体での環境意識の高まりと共に、受講者数の増大が期待されます。

インドネシア カリマンタン島
インドネシア カリマンタン島
2次林での火災 (2006年9月)
ラオス北部山岳地帯の焼畑
ラオス北部山岳地帯の焼畑
(2005年3月)