2005年に施行された「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律(環境配慮促進法)」では、事業者に自主的で積極的な環境配慮を促すために、ステークホルダーとの重要なコミュニケーション手段として政令に定める事業者に環境報告書の発行が義務付けられています。本環境報告書は環境省の「環境報告ガイドライン2018年度版」および環境省「環境報告のための解説書~環境報告ガイドライン2018年版対応~」に沿った内容となっており、本報告書が環境報告書として適切であると評価することができます。
本報告書では、冒頭の学長メッセージや環境憲章の「環境意識の高い人材の育成と支援」、「地球環境を維持し創造するための研究の推進」と「率先垂範としての環境保全活動の推進」という3つの基本方針に即し、教育研究活動及び環境マネジメントに対し、人文・社会・自然科学が融合した総合的なアプローチがなされていることを一貫して読み取ることができます。
前半の環境に関する教育研究とトピックスでは、気候変動、カーボンニュートラル、生物多様性、海洋プラスチック問題など人類喫緊の重点課題に関係する多様な取り組みや教育・研究活動が紹介されており、神戸大学の総合力の高さが際立つ内容となっています。中でも環境省への協力事業である持続可能な地域社会の形成を目指したESG地域金融の普及展開への取り組みは先進的であると高く評価できます。学生環境サークル「えこふる」の学生自身によるe-ラーニングコンテンツの作成も、学生の高い環境意識を醸成する、他大学の模範となる素晴らしい取り組みです。
環境マネジメントにおいては、シンプルで実効性がある環境保全のための組織体制が構築されており、環境キャラバンと環境改善キャラバンの継続的な実施によりPDCAサイクルが確実に回るシステムが構築されていると思われますが、環境保全のための組織体制と環境マネジメントとのつながりが具体的に示されていないことが気になりました。環境マネジメントシステム(EMS)として必要十分な仕組みがすでに存在していると推察されますので、学長メッセージ、憲章等に沿ったEMSとして整理されてはいかがでしょうか。すでにEMSが構築されているにも関わらず、独立して環境マネジメントと記載されているのはもったいないように思いました。
エネルギー消費や一般廃棄物管理についての記述は大変分かりやすくまとめられていましたが、2020年度は現在も続いているコロナ禍の中で政府による緊急事態宣言が発出されるなど、教育研究活動が一部制限されたため、エネルギー使用量等が大きく減少しています。このいわゆる非定常状態にあった昨年度の活動を通常年度と直接的に比較できるか、次年度以降で議論が必要です。
一方で、実験廃液や化学物質・高圧ガスの管理などのリスクマネジメントについて記載されたページには具体的な状況を把握できる情報が不足しているように思われました。理工医系学部を擁する貴学で取り扱われる化学物質等は多くの法令で規制されています。これらの遵守状況についてわかりやすい記載があった方が環境報告書としての機能が充実します。
以上、今後の発展のために後半では数点指摘させていただきましたが、全体としては極めて中身の濃い充実した報告書です。何よりきめ細かな取り組みによって教職員学生に高い環境意識が醸成されていることに感銘いたしました。