環境に関する教育研究とトピックス

トピックス

食品ロスダイアリーとESD演習

経済学研究科 特命講師 小島 理沙(NPO法人ごみじゃぱん 理事)

(1)食品ロスダイアリーの成果

2018年度より3年間にわたり、環境省の環境経済の政策研究において、食品ロスダイアリーアプリを活用した家庭系食品ロスの発生抑制効果を検証してきました。本研究の環境政策への貢献についてご紹介します。本研究の成果は、まず家庭系食品ロスに対して、実質的に取り組むことができるツールを開発できた点です。家庭系食品ロス対策の最大の難点は、各家庭のライフスタイルや食事に対する多様な価値観が存在することから、一律の対策では効果が薄く、それぞれの世帯に応じた工夫や心得が必要になる点です。なぜなら、家庭から出る食品ロスの発生理由は、「買いすぎた」や「食べきれなかった」、「消費期限に気づかなかった」等様々であることから、レジ袋やマイボトルの持参といったある特定行動の提案だけでは、国民全体的な家庭内の食品ロスを減らすことは難しいからです。一方で、「食べられない人がいるのに残すのは良くない」等といった道徳的な訴求だけでは、個人の道徳意識の高低によって効果が分散するため、経済的インセンティブや単純にもったいないという気持ち、普段からの心がけなど各家庭にあった多角的な対策が必要となります。その点から、行政等からの一律のコミュニケーションでは実質削減に対し限界があり、いかに世帯レベルでそれぞれに「工夫」をしてもらうかが大きなポイントになってきます。食品ロスダイアリーは、特定の手法を提案するものではなく、個人に対して削減を動機付け、具体的な手段の選択を個人に委ねるという点において、世帯ごとの多様性に柔軟に対応でき、削減に向けた対策の汎用性が高く、かつ誰にでも取り組むことが可能です。そういった利点を生かし、費用が少なく、参加者の負担も少ない上、誰にでも可能な家庭系食品ロスの対策手段を確立することは、日本の家庭系食品ロスの発生抑制に貢献すると考えています。

さらに、アプリケーションは、開発後についてはダイアリー利用の費用を低く抑えることもでき、多くの皆さんにご利用いただくことが可能です。また、デジタルデータですのでユーザーに対して情報をフィードバックすることもできます。様々な意味でコストを抑えながらも、食品ロスの発生抑制効果が期待できるツールを開発できたことは、政策的にも意義のあることであると考えています。本研究について2021年3月に行われたG7のALLIANCE FOR RESOURCE EFFICIENCY WORKSHOPにおいても紹介され、また、日本全国の様々な自治体よりご活用やお問合せをいただいています。

食品ロスダイアリーアプリとG7ワークショップの紹介資料の様子

(2)ESD演習 廃棄プラスチック問題・資源循環の持続可能性に取り組む

経済学部で開講しているESD演習は、2019年度より河川から海洋に流入するプラスチック廃棄物の実態調査を行いながら、調査手法の開発研究を行ってきました。2019年度は、実際に河川に落ちているプラスチックごみの写真を地図データに落とし込み分析をしてきましたが、2020年度はそれらを踏まえながら普遍的な調査手法の開発を試みる予定でした。残念ながら新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言等もあり、授業がオンライン開講となり、フィールドでの調査ができませんでした。フィールドに出ずにできることはないかと学生と検討し、神戸市内にある河川監視カメラの画像データ分析を行うこととしました。観察データや調査の設計について専門的に学び、調査設計案を学生が立てました。河川カメラについては、神戸市に調査趣旨を説明し、許可を頂き数か所のデータをご提供いただきました。地図や経験、画像を頼りに48時間の観察データを作成し、分析を行いました。定点情報ならではの利点と分析できる内容の限界がわかり、いかにフィールド調査での情報量が多いのかがよくわかった演習となりました。散乱ごみの問題は、ごみ箱の設置によってある程度解決はできますが、問題は「誰が」管理するのか、コストも含めて大きな難題であることが議論されました。

2021年度においては、プラスチックの資源循環にフォーカスを充てた演習を実施しています。神戸市が2021年度にパイロットケースとして実施する拠点回収モデルについて持続可能性の観点から分析評価を試みています。これらの背景として、神戸市では高齢で認知症を患う方が4万人、さらに予備軍が4万人おられると推定されており、来るべき高齢化の課題が浮き彫りになりつつあります。そういった社会状況においても廃棄物の資源循環の重要性に変わりはなく、日本の資源循環を支える高精度な分別排出行動をどう維持していくのかが大きな課題です。

経済学部のESD演習は高度教養科目として、資源循環分野における持続可能性に対する知見を養い、予測可能な将来を考慮しながらあるべきこれからのビジョンを策定することを目標としています。当該分野は文系、理系を融合した知識教養そしてビジョンが必要です。2021年度の経済学部ESD演習では、工学部、法学部、国際人間科学部、経営学部と多様な学生が集まり、まさに学部横断のチームとなっています。学生も、様々な学部の学生と交流できることも履修動機の一つだと述べています。

図1. 学生がたてた仮説
図2.フィールド調査の様子(長田区)