環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する研究

気候変動の経済分析

経済学研究科 准教授 阪本 浩章

野球やサッカー、バスケットボール、テニスといった人気スポーツに共通するのは「ゲームのルールがよくできている」ということです。これらのスポーツでは、試合を盛り上げるために選手がわざわざ何かを演じる必要はありません。対戦相手に勝利できるよう各プレイヤーが「利己的に」振る舞えば、自然と面白い結果を生み出すようにルールが巧妙に設計されているからです。社会や経済のルールについても、全く同じことが言えます。我慢をさせられたり意に反した行動を強いられたりする社会よりも、人々がルールに則って「利己的に」振る舞えば自然と上手くいくようデザインされた社会の方が、制度設計の面で優れていると言ってよいでしょう。典型的な例は市場です。市場経済は、計画経済のように政府が社会全体のことを考えてアレコレ指示を出さずとも、個々人が好き勝手に振る舞えば必要なものが必要なだけ生み出され、必要とする人にきちんと行き渡るという意味で、とてもよくできた仕組みと言えます。

私の研究上の関心は、人々の良心に訴えるのではなく、社会や経済のルールを上手く設計することによって、環境問題を解決しようというものです。いくら「環境にやさしい」行動を呼びかけても、それが人々に我慢を強いるものであれば、効果的でないか、効果があったとしても長くは続きません。また「みんなで二酸化炭素の排出を抑えよう」と言っても、誰がどの程度頑張ればよいのか明らかでなく、行動を起こすべき(簡単に排出削減できるはずの)人が努力を怠る一方で、本来であれば他の目的のためにリソースを使うべき人が必要以上に頑張ってしまう可能性もあります。人々の行動は社会のルールを前提として最適化されているため、ルールを維持したまま行動だけを変えさせることは難しく、無理を強いれば予期せぬ副作用も生じかねないわけです。そこで、社会のルール自体にひと工夫を加えることで、こちらが黙っていても皆が自然と問題を解決したくなるようお膳立てすればよい、と考えるのが環境問題に対する経済学的なアプローチになります。

そのような環境問題を解決するための「ひと工夫」に、カーボンプライシングと呼ばれるものがあります。基本的なアイディアは、二酸化炭素に価格をつけることで、削減すべき人が、削減すべき分だけ、黙っていても削減したくなるように、社会のルールを設計し直そうというものです。私の研究の一部はこの仕組みに理論的な基礎付けを与えるもので、たとえば数理モデルを使ってカーボンプライシングの理論上の性能を検討したり、経済モデルと気候モデルとを組み合わせて「適切な二酸化炭素の価格」を計算するための公式を導き出したりしています(下図)。