国土の6割を覆う森林、豊富な海洋資源、恵まれた水と温泉、そして美味なる食—こうした自然の恩恵は、日本が類まれな「危険地帯」にあるからこそなのだ。4枚のプレートがせめぎ合い、全地球で2割の地震と8%の火山が集中する列島。なぜ列島でこのような大変動が起こるのか?その仕組みを地球誕生までさかのぼって説明し、明日起きてもおかしくない大災害を警告する。
変動帯日本列島は、地球の進化の当然の営みとして確実に試練を我々に与える。しかもこれから私たちが受けようとしているのは、これまで無意識に記憶から削除しようとしてきた数々の試練を遥かに凌ぐ前古未曾有のものなのである。そして遺憾にも私たちはこの試練から逃れることはできない。例えば、今後100年以内に20%もの高い確率で発生する超巨大噴火。その火砕流で焼尽される領域には1000万以上の人口がある。これは日本喪失以外のなにものでもない。日本人とその文化にとって危急存亡の秋と言っても過言ではない。しかし自然はこんなことには全くもって無頓着である。変動帯に暮らす民はもう「覚悟する」より他ないのである。
私には、この国の社会や経済がいかに危機的状況にあるのかを論ずることはできない。しかし、地球変動の歴史やそのメカニズムを調べる者として、私たち日本人が地獄の入り口に立っていることは確信している。しかもその扉は、もう何時開いてもおかしくはない。更に言うなれば、豊かさという語彙が持つ本来の意味を忘れ去りつつある私たち自身が、地獄の悍ましさを増大させているのである。
地球の至極当然の営みとしての列島における変動現象、その荒魂(あらたま)と和魂(にきたま)としての側面、それに不可避かつ前代未聞の試練の存在を脳裏に深く刻んでいただきたい。
理学研究科・教授 巽 好幸