21世紀も20年以上が経過し、ますます進行するグローバル市場主義の弊害が各所で顕在化する中、「新しい資本主義」の在りようが模索されつつある。企業の社会的責任(CSR)やCSV(Creating Social Value)経営、サステイナビリティ、ESG(環境・社会・統治)投資といった用語に典型的に示されるように、われわれの社会の在りように焦点を当てた諸概念がここ20年ほどの間に矢継ぎ早に開発され、世間の耳目を集めている。国連により提示され、2030年までにわれわれが達成すべき目標の指針とされるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)もまた、こうした社会の新しい在り方の方向性を模索する時代のコンテクストに位置づけられる概念である。
本書『SDGsの経営学―経営問題の解決へ向けて―』は、このSDGsにおいて示された大きな枠組みを念頭に置きつつ、経営学という学問領域から見てそれらをどのように評価できるかについて、さまざまな視角からの検証を試みたものである。
周知のように、SDGsは17の目標、169の達成基準、232の指標からなる持続可能な開発のための国際的な開発目標である。本書の第1章でも言及されるように、これらの目標群は概ね、「人間」および「地球」の2種類の目標群に大別できる。前者は、われわれの社会を構成する最小単位である一人ひとりの人間が、他者との関わり合いの中で健全な成長や尊厳の確保を目指すための目標群であり、後者はわれわれが生活し多様な活動を行う場としての地球環境が、人間活動の影響の拡大によって修復不能となる事態を避けるため、節度ある開発を目指すための目標群となっている。
要するに、われわれ一人ひとりによって構成される社会や地球が、将来的にも持続可能な状態であり続けるよう、抑制の効いた開発を模索しようとするガイドラインがSDGsなのである。誤解を恐れずに表現すれば、各自が自分自身のことだけではなく、他者や環境に対しての優しさや思いやりをもった自制的行動を要請するのが、このSDGsの理念であるといってよい。
本書は、これらSDGsの多岐にわたる目標群に関する包括的で体系的な分析を企図するものでは必ずしもない。むしろ経営学の各領域の研究者や経営実践に携わる実務家が、各自の研究・実践活動においてこのSDGsをどのように把握し、評価しているかを、経営学の体系に沿って整理のうえ編集したものである。本書の各章で展開される分析により、SDGsの実現へ向けた経営上の具体的方途が明らかにされるとともに、目標達成へ向けた課題や困難性、さらにはSDGsの枠組みそれ自体が有する問題点についても深層レベルで議論されている。
本書の執筆陣は、独立行政法人日本学術振興会に「学術の社会的連携・協力の推進事業」を担う目的で設置された産学協力研究委員会の一つである「経営問題第108委員会」に在籍していたメンバーから構成されている。同委員会では1947年の発足以来70余年にわたり、産業界委員と学界委員が密に連携を取りながら、それぞれの時代の経営上の諸問題に焦点を当て解決へ向けて努力を重ねてきた経緯があり、本書はその集大成として位置付けられる。
本書「はしがき」より抜粋
第Ⅰ部 基本視点
第Ⅱ部 企業統治
第Ⅲ部 事業活動
第Ⅳ部 組織管理
第V部 社会の発展
補章 経営問題第108委員会の歴史と総括