環境に関する教育研究とトピックス [環境に関する教育]

「環境・食品・産業衛生学」及び「環境保健学特講」について

保健学研究科 教授 中澤 港

私は、保健学科検査技術科学専攻の2年生を対象に、前期に「環境・食品・産業衛生学」という講義を行い、後期にその内容を踏まえた「公衆衛生学実習」を行っています。その他にも、保健学科の学生を対象とした講義の中で環境関連のトピックを若干扱っていますし、平成25年度後期から大学院保健学研究科の講義でも「環境保健学特講」(英語で実施)を開講しました。

「環境・食品・産業衛生学」では、第1回目の講義を「環境の概念と地域生態系」と題し、環境とは何か? 人間にとっての環境とは何か? といった本質論から始めます。検査技術科学専攻の他の専門科目は臨床検査技師という仕事に直結しているので、このような大きな話を考えることに慣れていない学生も多いのですが、地球生態系、生命が存在するための自然環境条件、体内環境の恒常性を保つことの重要性、人間がもつ極めて大きな環境形成作用による居住域の拡大、意図しなかった間接効果の集積による環境問題の発生、それが新たな健康問題につながる場合もある、と話を進めることで、保健専門職でも環境問題を学ぶことが重要であることを納得できるように工夫しています。第2回からは各論に入って、「大気・温熱・気圧」、「騒音・振動・放射線」といった物理的環境因子が健康に与える影響を説明した後、「栄養」「食品衛生」「感染症疫学」の3回で、生物学的環境を中心に説明します。次に化学的環境として「化学物質の管理」「廃棄物と都市環境」について、個別の事例を出して理解しやすくするように工夫しながら、条約や法律に基づく管理の枠組みについても説明します。産業衛生学の講義をした後、最後は「毒性学入門」「公害と地球環境問題」「リスク論」という3回の講義で、主として物理化学的環境条件がヒトの健康に有害作用をもたらすメカニズムや対策の方法について説明しています。

「環境保健学特講」では、Frumkin H [Ed.] (2010) Environmental Health: From Global to Local, 2nd Ed. Jossey-Bass, John Wiley and Sons.という教科書を使って、環境保健学のフレームワークから始まり、生態学と環境保健学、毒性学、環境の産業衛生への影響、遺伝と環境保健、環境的正義論といったパラダイムの説明に続いて、具体的な環境問題と健康影響として、人口圧、気候変動、水と健康、廃棄物問題、食品の安全性、自然災害の健康影響といったトピックについて概説しています。

「環境・食品・産業衛生学」の詳細はhttp://minato.sip21c.org/envhlth/を、「環境保健学特講」の詳細はhttp://minato.sip21c.org/envhlth-special/をご覧いただければ幸いです。最後に一言だけ書かせていただくと、机上の空論では環境問題は解決できないと思います。広くいろいろな立場の人が、現実の生活に根ざした議論をし合って利害をすりあわせることが必要です。そこで私は、15年前の七夕から、「環境自由大学青空メーリングリスト」(http://www.bluesky-ml.org/)という、メールアドレスさえあれば誰でも無料で自由に参加できる議論の場を共同運営してきました。過去の議論がすべて公開されていますので、関心のある方は、お気軽にご覧いただければと思います。