学長のメッセージ

武田神戸大学長の環境への思いを聞くため、海事科学研究科2年の市川弘人さん、工学研究科1年の竹元毬恵さん、経営学部2年の原田祥伍さんがインタビューを行いました。

武田神戸大学長

専門は高エネルギー物理学。
平成15年神戸大学理学部長、
平成19年同大附属図書館長、
平成21年同大理事を経て、
平成27年、第14代神戸大学長に就任。

(市川さん)

きょうは神戸大学の環境活動について学長のお考えをお伺いしたいと思いますので宜しくお願いします。

環境憲章にある研究、人材育成、環境保全の3つの観点ついて、学長のお考えをお聞きかせください。

まず環境憲章の「環境を維持し創造するための研究推進」についてですが、再生可能エネルギーの研究推進について、学長はどのようにお考えでしょうか?

(学長)

研究推進への考えですね。神戸大学はもともと社系が強い大学でここに伝統があります。医学系や理系も力を付けてきて、現在社系も強いし理系も強い。それぞれ優れた部分があって、そこをうまく組み合わせようというので、科学技術イノベーション研究科を作りました。その中に再生可能エネルギーの研究があります。自然の素材を使って燃料に転換していくバイオプロダクションという大きなプロジェクトが動いています。これがうまくいけば、石油とか石炭に替わる燃料になりますよ。昔は環境問題といっても大学の先生がこんなものがあったら面白いなということで、先端の技術を発見したり発明したりしたわけですが、現在ではそれをどうやって採算のとれる事業ベースにもっていくか、ということも考えなければいけません。

このためには会計とか資金調達とか経営の考え方や企業家マインドも必要となります。理系と文系をうまくミックスして、研究をできるだけ社会に還元しようということで大学が動いているんですよ。再生エネルギーの研究に関しても同様で、研究を社会に還元する、これが研究推進の考え方ですね。

(竹元さん)
工学研究科1年 竹元毬恵さん

工学研究科1年 竹元毬恵さん

いまのお話で実際に環境問題について、企業を大学に招いて学生と交流を持つという場の設定についてはいかがですか?

(学長)

それは共同研究という仕組みで取り組んでいます。いま、大々的に取り組んでいるのが、先ほど述べた環境分野のバイオプロダクションですよ。ポートアイランドに統合研究拠点という建物があり、大学の教員、学生、院生、企業研究者100人くらいが一緒にバイオプロダクションを進めています。大きなプロジェクトを発足させることによって、これが企業と学生との交流の場になっており、今後の研究推進の一つの方向性だと思っています。見学ルートもありますから、ぜひ行ってみてください。

経営学部2年 原田祥伍さん

経営学部2年 原田祥伍さん

(原田さん)

「環境意識の高い人材の育成」についてお聞きします。我々文系の学生は、環境意識が理系の学生に比べて薄いと感じていますが、私たち文系に求められるものについてはいかがでしょうか?

(学長)

環境だけに限ったことではないですが、やっぱりいろんな体験をすることです。若いときに日本だけに留まらないでいろんな所を見て、いろんな文化に触れると、日本の良いところ、悪いところが見えてきますよね。環境についてもそうです。環境を旗頭にするのはヨーロッパの流れであり、ヨーロッパではどういう生活を送っているのかということを見るだけでも大分変わります。アメリカの中だって決して一枚岩ではありません。海外でそういうところを見てきてもらいたいし、また日本との違いに気づいてもらいたい。そうすると、考え方に柔軟性が出てきますよ。環境問題をどうしていこうかなということも、これまで以上に新しい考えが浮かんでくるでしょう。また環境問題への取り組みは日本だけでは絶対にできないことにも気づくでしょう。日本だけグリーンな、いい社会を作っても、海外の国々と連携しないとうまくいきません。これには海外の関係者を説得できる交渉術が必要で、本当に環境問題に取り組もうと思うと、ここは文系の出番です。外交官とかがちゃんと交渉を行って、その交渉をまとめ上げることをやらないといけませんね。文系の学生に期待されるところです。

(市川さん)
海事科学研究科2年 市川弘人さん

海事科学研究科2年 市川弘人さん

環境問題に関する人材育成についてはいかがでしょうか? 例えば国際的な環境のリーダーの育成はいかがでしょうか?

(学長)

それぞれの立場で自分の専門を深めること、これがまず第一ですよ。最初から融合、融合というか全部やろうとしたらこけますね。全部できますという人もいるけれど、まずは自分の専門を理解して、なおかつグローバルな視点でそれをもう一回眺めてみる。そうするとどこかが足りないということで視野が広がり、次のステップに進める。このようなプロセスで育成を図ることが必要だと考えています。

(竹元)

「率先垂範としての環境保全活動の推進」についてお聞きします。環境問題自体が大きな問題と思うので、なかなか学生の意識が変わらないと思うのですが、その点において大学が範として先導できることがあるのでしょうか。

(学長)

それはモラルリーダーであることです。環境の本当の動きは、社会全体が動かなきゃどうしようもない。例えば、「水を節約しましょう」と言っても、人間は易きに流れるところがあって、いまの状態が便利だから節約しなくてもいいや、と思ってしまう。だけど大学は、知識人の集合体だという自負を持っているわけです。大学の個々人が、一歩進んだモラルを持っている状態であってほしいと思います。だからこそ少し自分に負担がかかるかもしれないが、一歩進んでエコな生活を送る、あるいは大学全体がそれなりにストイックな生活をするという環境問題への取り組みが一つのモデルケースでしょう。大学が社会のモデルになるとの気構えが必要だと思います。自分が全部頑張らなければ、という発想ではだめで、自分はこういう信念で取り組んでいるんだ、という姿勢ですね。だから少し照れくさいけど、我慢をしてでも、環境にストイックな大学でいたほうがいい。そういうことだと思います。

(原田)

最近自然災害が多いのですが、自然環境から受ける恩恵というか、逆に自然環境から守るというのか、自然への見方、保全についての考え方などはいかがでしょうか?

(学長)

神戸大学のロケーションは最高です。ただ気を付けないといけないのは、六甲山だっていつ崩れるか分からない(笑)。南海トラフ大地震があると、おそらくポートアイランドあたりは水浸しになるでしょう。これを頭に入れておかないといけない。いかに緑を増やして、環境を良く、空気を良くしても、火山一発ボンといったらそれでもう終りですからね(笑)。その辺の気構えも、啓発していかなきゃいけないと思います。環境問題と自然災害というのは、表裏一体、裏返しであると思います。

(市川)

最後に学長から学生全体に対してメッセージをお願いします。

(学長)

あと10年後20年後の主役は君達なんだということです。逆に言うと、君たちにも責任がいくんだからね、というのが私のメッセージです。そのころは、ぼくらはいないですからね。だからいまのうちにちゃんとしたエコシステムなり、環境問題の道筋を付けておかないといけないと思います。10年後、20年後自分たちが、社会の中核になったときにどうするかということを、いまから考えておいてほしいということを学生諸君に言いたい。そのためにはいま、環境問題で動いているときには、一生懸命そこに協力してやっていく。それは自分たちのためなんだということ、そういうことですね。