環境に関する教育研究とトピックス [環境に関する研究]深江丸による太平洋沿岸域の大気物質測定

海事科学研究科付属練習船深江丸は、海事科学部学生の実習航海に使用している他、教育、研究、調査などに活用されています。研究に関しては、毎年、春季と夏季に研究航海が実施されており、学内外に対して広く参加者を募集しています。

今回は、我々の研究チームが参加した、平成27年度春季深江丸研究航海(深江〜塩竈の往復航海、2016年3月11-19日実施)についてご紹介いたします。本研究航海では、7つの研究チームが乗船し、研究・調査活動を行いました。 図1は、仙台塩竈港停泊中の深江丸の様子です。

我々の研究チームでは、本学教員、学生、および兵庫県、大阪府、大阪市の環境研究所の研究者が参加し、航行航路上の大気物質(PM2.5、O3、NO、NO2、SO2、N2O, CO2など)濃度の連続測定を実施しました。大気物質濃度は、屋外に大気採取口を取り付け、大気を海洋観測室まで導入し、室内に設置した分析測定装置(図2)にて測定しました。私の専門は大気数値シミュレーションです。観測経験はほとんどなく、とりわけ船上観測の経験は皆無のため、図2の分析測定機器は全て前述の研究所所有のもので、装置の設置も研究所の方などが行いました。図3は、今回の研究航海中に測定したNOxの洋上大気中濃度分布です。大阪湾、中部・関東周辺沿岸地域にて、NOx濃度が高くなることが確認できます。

それからしばしば高濃度汚染も話題となります、PM2.5、光化学オキシダント(主成分はO3)、および、これらの前駆物質(NO、NO2、SO2など)については、近年、陸上での観測網が整備されつつありますが、洋上での測定は十分ではありません。特に、大阪湾〜瀬戸内海にて、これらの大気物質濃度の上昇が深刻視されていますが、この原因はまだ明らかになっておりません。同洋上にて、これら大気汚染物質濃度の直接測定の事例は少なく、本研究は、この原因の解明に向けた取り組みへの一歩となることが期待されています。大阪湾・瀬戸内海に面する神戸大学海事科学研究科が、近隣の環境研究所と協力して取り組むべき重要な課題であると考えています。

  • 図1 仙台塩竃港停泊中の深江丸

  • 図2 深江丸海洋観測室に設置した大気質分析測定装置。
    全て、大阪市、大阪府、兵庫県の環境研究所所有のもの

  • 図3 研究航海中のNOx(ppbv)の1時間平均濃度