環境に関する教育研究とトピックス [環境に関する研究]有機半導体薄膜光触媒を用いた水からの水素製造法の開発


図1 Piceneの分子モデル図
次世代のクリーンエネルギーとして知られている水素は、現在天然ガスや石油といった化石燃料を原料とし、多量のエネルギーを消費して製造されています。これらに変わる水素製造法の一つとして、太陽光を利用した光触媒反応による水の光分解からの水素製造法の開発が切望され、盛んに研究されています。この反応には、主に酸化チタンやペロブスカイト型酸化物などの無機半導体光触媒が用いられているのですが、これら無機半導体はそれぞれ固有の伝導帯・価電子帯のエネルギー準位を有していて、任意の光吸収特性を持つ無機半導体の設計は極めて困難であることが知られています。一方で、有機半導体は分子設計が容易であるという特徴を持ち、さまざまなHOMO-LUMOエネルギー準位を有する分子を設計でき、容易にバンドギャップをコントロールできると考えられています。この有機半導体は、太陽電池やトランジスタなどさまざまな分野で利用されており、優れた電子デバイスとして近年実用化が進んでいる分野であります。しかし、有機半導体を光触媒反応に用いた報告はほとんどなく、その光触媒特性については明らかになっていないのが現状です。

本研究室では、有機半導体としてPiceneを用い、真空蒸着法にて成膜したPicene薄膜を光触媒として用いた水の光分解反応による水素製造法について研究しております。この調製したPicene薄膜光触媒ですが、その配向性を調べたところ、Piceneは基板(ab平面)に対して、垂直(c軸方向)に配向していることが確認されました(図2)。そこで Picene薄膜の光触媒活性を調べるために、触媒を水に浸し、紫外光照射を行ったところ、水素の生成が確認され、さらに還元剤としてギ酸を用いることで、その活性は飛躍的に向上することが明らかとなりました。次に、この触媒が光触媒として機能しているか調べるために、Picene薄膜光触媒による水の光分解反応での水素生成量の反応経時変化を測定しました(図3)。 反応溶液にギ酸水溶液を用いたところ、光照射開始とともに水素が効率よく生成し(2~7 時間)、光照射を止めると水素の生成はすみやかに停止(7~9時間)、再び光照射を行うと水素の生成が観測され(9~15時間)、水素生成量は直線的に増加することが分かります。このように光照射応答性が観測されたことからも 本触媒が光触媒として機能していることが分かります。また、この触媒を再利用したところ、水素生成活性は維持され、反応中にPicene自体が分解されるようなことはなく、極めて安定な触媒であることも分かりました。Piceneは可視光(λ>400nm)に近い383nmの紫外光を吸収して反応する触媒ですが、今後は量子化学計算を用い、分子設計することで、可視光を効率的に吸収できる有機半導体光触媒を設計・合成し、太陽光をより効率的に利用し、水から水素を製造できる光触媒の開発を目指していく予定です。

  • 図2 Piceneの石英基板上での配向性

  • 図3 Picene薄膜光触媒によるギ酸水溶液での水素生成量の反応経時変化