環境に関する教育研究とトピックス[環境に関する教育]

里山の葉面積指数と林内雨の溶存イオンの関係を探る

  • 写真1 林内雨の採取地点を探すために里山を探検
  • 写真2 魚眼レンズで撮影した森林の全天空写真

奈良学園高等学校・中学校は奈良県の大和郡山市に位置しており、校内には7ヘクタールの里山があり、里山づくりをテーマに活発な教育が行われています。平成27年度より小職は理科指導員として、スーパーサイエンスハイスクールの高校生と里山の湧水や雑木林の樹幹流(木の枝、葉などに降った雨が、幹を伝わって流れる雨)についての教育に携わっています。平成29年度は、葉面積指数と林内雨(木の葉、枝などに触れた後、森林内に降る雨)に含まれる溶存イオン濃度(雨に溶けているイオンの濃度)との関係について調べました。葉面積指数(Leaf Area Index;LAI)とは単位土地面積当たりの植物の葉面積であり、例えばLAI=2は、1m2の地表の上にある葉の面積の合計が2m2、すなわち地表の面積の2倍の葉で覆われていることを示します。

葉面積指数を測定するため高校生と里山を探検し(写真1)、魚眼レンズを取り付けたカメラで森林の全天空写真(写真2)を撮影し、Gap light Analyzerで画像解析を行い、葉面積指数を計算しました。奈良学園高校の里山の数カ所において葉面積指数を算出したところ1.7~3.1となりました。

次に、森林は大気汚染物質を捕捉するため、葉面積指数が大きければ、大気汚染物質の捕捉量が多く、ひいては林内雨の溶存イオン濃度も高いという仮説に基づいて、林内雨の溶存イオンを定量分析しました。各種溶存イオンの定量分析は、高校の国内研修プログラムの一環で、高校生に2泊3日で神戸大学へ来学いただき、大気汚染物質である窒素酸化物や硫黄酸化物に由来し、林内雨に含まれる硝酸イオンおよび硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフ(イオンを分離して濃度を測る装置)で分析しました。葉面積指数と林内雨の溶存イオンの関係は概ね仮説を支持する傾向がみられましたが、1年間の限られたデータからは立証することはできず、データ数を増やすなど、次年度以降の課題になりました。硫酸イオン濃度は、林外雨(森林の外に降る雨)と林内雨を比較しても大きな濃度の変化は認められませんでした。一方、硝酸イオン濃度は林外雨に比べて、林内雨では2~6倍濃度が高くなりました。得られたデータを解析し、高校生および教員、大学の研究員を交えて議論し、林内雨における硝酸イオン濃度の上昇は、窒素酸化物の沈着(物質が大気中から地表へ移動する現象)を示唆する結論を導きました。