環境に関する教育研究とトピックス[環境に関する研究]

深江キャンパス内の港における海洋環境の常時測定

内海域環境教育研究センター 准教授 林 美鶴

環境報告書2008では、深江キャンパス内の港(ポンド)で実施している海洋・気象観測実習を紹介しました。2016年度には水質の常時測定器を設置して(図1)、深度、水温、塩分、密度、水素イオン指数、溶存酸素濃度・飽和度、酸化還元電位、濁度、総溶解固形分量、懸濁物質量の測定を行っています。設置場所は高橋川の河口に位置する桟橋で、海底上約30cm(水深5m±1m程度)で測定しています。図2は計測結果の一例で、1日間で塩分が約3psu、溶存酸素濃度が約4mg/L変化しており、その変動は二周期で、両者には逆相関があります。この様な周期性には潮汐が影響し、溶存酸素濃度が低い海水と、高い河川水が交換・混合していることが伺えます。数値の大小には、河川水と海水の混合度、光合成や微生物分解などの生物活性、などが関係します。この様なデータに、ポンドで毎週行っている水温、塩分、密度、濁度、蛍光光度の鉛直分布測定(図3)を組み合わせることで、海域の水塊・水質構造の時空間変動を把握することが出来ます。

環境省は水質汚濁に係る環境基準として、平成28年度から新たに底層溶存酸素量を追加しました。これは、底層に生息する水生生物の個体群が維持できる場を保全・再生することを目的としています。海水の水質は自治体などにより年に数回、複数の測点で測定されていますが、常時測定地点は少なく、時空間的な水塊の動きを年間を通じて把握することは困難です。常時測定器で得られたデータにより、底層溶存酸素量の空間分布に対して時間的な補完を行う、同時に計測した関連項目と共に解析することで水質汚濁機構を解明する、などが期待できます。

深江キャンパスには数十年前に(当時、神戸商船大学)、ポンドに検潮所が、1号館屋上に一般気象観測計が設置され、現在も潮位、気圧、風向、風速、気温、湿度、日射量の常時測定を行っています。これらの測定結果は海事科学研究科の紀要に掲載しています(神戸大学学術成果リポジトリKernel、www.lib.kobe-u.ac.jp/kernel/seika/ISSN=21852804.html)。また、ポンドでは企業や学外研究機関も多くの研究(船底塗料実験、アサリの生育実験、など)を行っており、キャンパス内では環境報告書2011で紹介した通り温室効果ガスの常時測定も行っています。このように深江キャンパスは海洋・大気環境研究の拠点となっており、常時測定データはこれらの基礎データとしても活用されています。

  • 水質測定器
    図1 水質測定器
  • 水質測定器による計測結果の一例
    図2 水質測定器による計測結果の一例
  • 基礎ゼミ生による水質の鉛直分布測定
    図3 基礎ゼミ生による水質の鉛直分布測定