人間発達環境学研究科 教授 井上 真理
繊維廃材を新たな資源として価値創造するため、2022年の春に繊維分野、生活環境分野、ならびにデザイン分野の研究者有志(滋賀県立大学・森下あおい先生、京都光華女子大学・宮原佑貴子先生、京都工芸繊維大学・木村照夫先生を中心とする)が、学生中心のチーム「エンウィクル」を立ちあげました。一年目は、廃棄繊維の新しい用途として制作した衣服や生活雑貨を大阪の百貨店で販売し、繊維の消費に関する問題を学生たちが捉えることからスタートしました。「エンウィクル」の名前は、エン(縁、円、丸い)、ウィ(私たち)、クル(一緒に、鍵)の意味をもち、「私たちとともに、これからの社会に向けて、より良い幸せのカギを開けましょう」というメッセージが込められています。そして2023年春に、(一社)日本繊維機械学会繊維リサイクル技術研究会の下部組織となり活動を開始しました。二年目の2023年度は、総合テーマを「私たちのSDGsS2023~繊維製品の循環をめざして」とし、8月23日に京都文化博物館別館で、消費者に向けたイベントを行いました。ファッションショーの作品をはじめとした廃棄繊維による服飾雑貨の販売を学生自ら例紹介、企業および学生のトークショー、ワークショップを行い、繊維廃材の問題についての情報発信を行いました。また新たな用途としての繊維廃材はどのような品質特性が見いだせるかについて物性評価を行い、その結果をパネル展示にして公開しました。2023年8月29日(火)~9月4日(月)、大阪なんばのマルイ百貨店において、制作物の販売を行いました。その内容はファッションショーで披露した制作物と、服飾雑貨、インテリア雑貨です。展示については、繊維廃材に関する世の中の取り組み情報を多くの人に知ってもらうため、企業8社における事業内容を、今回の学生の制作物における物性評価の結果とともにパネルで展示しました。さらに企業展示の担当者、各大学の学生によるトークショーやワークショップにより、一般の方、企業と学生たちの交流を行いました。
神戸大学衣環境学チームでは、廃材の布の力学特性・表面特性を測定し、風合いの評価結果を示す挑戦をし、3年生の学生が発表しました。ヒトの感性を数値化する、という試みを、このような場で実践できることは、これまでこの研究を続けてきた私にとって、とても重みのあることでした。布の持つ特徴を活かし、デザイナーさんが感じるであろう廃材ならではの風合いを客観的に示し、形にするアップサイクルの一助になることを願っています。
神戸大学国際人間科学部発達コミュニティ学科アートコミュニケーションプログラムの清水大地先生が率いるチームでは、神戸大学のオープンキャンパスの際に展示した物の一部を参加型インスタレーションとして展示しました。企業から提供された布と魚網が作品制作に使用されました。神戸大学鶴甲第2キャンパスの螺旋階段のある空間に布を散りばめ、その布を鑑賞者に手に取ってもらい、中央に設置したトルソーに飾り付けてもらうことで一つの服を作り上げようという主旨の作品で、安全性を考慮し、どうすれば針やハサミを使わず、布と布を繋ぎ合わせることが出来るかを考えて、ひも状にした布を網に結び付けると言う方法を採用しています。どこにどう結びつけるかは人によって様々で、1人1人の試行錯誤によって一つの作品が出来上がったものです。2024年度も9月12日、13日に京都文化博物館別館でイベントを開催する予定です。