環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する研究

反毛を使用した糸及び生地の物理特性の測定と風合い評価

人間発達環境学研究科 教授 井上 真理

日本では繊維廃材、特に廃棄衣料が毎年80万トン近く発生している。それに対し、有効活用されているのは30%前後という状況です。繊維リサイクルが低迷している大きな理由は経済的に見合うシステム構築(出口戦略)が遅れていることですが、近年は環境配慮型へ世の中が変わりつつあり、以前に比べて経済的なハードルは低くなっています。

繊維産業の地球環境への負荷が高いとされている中で、令和4年5月に経済産業省はビジョン及び繊維ロードマップを策定し、公表しました。その中でも繊維to繊維リサイクルの取り組みに重点が置かれ、特に単一素材のケミカルリサイクルに力点が置かれています。一方で、再資源化の方法として反毛のようなマテリアルリサイクルも重要です。反毛とは、廃棄糸や廃棄生地などを機会によって綿状に戻して再度繊維として再利用することです。羊毛のように高価な繊維では従来から行われてきましたが、この時代になって一般布地にも応用することが求められるようになってきています。しかし、バージン繊維よりも短い繊維になってしまうため、糸の品質が低下するといわれています。

廃棄衣料を有効活用するためには廃棄物の量に見合っただけの出口が必要で、繊維としての再利用が望ましく、とくに廃棄衣料から糸が出来ると幅広い用途があります。ポリエステルや綿100%の単一素材の糸としての再利用システムはかなり進んできていますが、廃棄衣料の大半は複数の素材から構成されています。そこで近年は素材別に分離する技術開発が活発化しています。一方で、分離のエネルギーを削減するために、そのままの素材構成で糸に出来ることが望まれています。ただ、混紡繊維の糸は品質やコスト、消費者意識などの観点から社会実装が困難である、という実情があります。

ここでは、素材分別が難しい廃棄衣料を、素材にかかわらず色で分けて反毛し、バージン綿と混ぜて試作した再生糸の開発と普及を目的として、民間企業、公設試、検査機関、材料学・生活科学を専門とする大学がタッグを組んで進めている研究内容を紹介します。

バージン綿として通常綿または超長綿を使用し、廃棄衣料の割合を30%または50%とした再生糸を試料として製織された織物、編組された編物についての研究です。再生糸に含まれる繊維の成分評価、ホルムアルデヒド等の化学的安全性についての評価、洗濯耐久性、糸の強伸度を始めとする力学特性、織物、編物の力学的特性、表面特性、風合い評価を行いました。バージン繊維のみよりも太い糸にはなりますが、シャリ感やハリ感の高い特徴ある布ができあがっています。

持続可能な循環型社会に向けたアパレルの開発には、再生糸を使用してどのような新しい価値を創出するかを明らかにすることが重要です。その価値は、素材自体が有する特性、布の構造から引き出される特性、デザインによって表現される特性が関わり合いながら生み出されるものです。各段階で見出される再生糸の優位な特性について、廃棄衣料由来の再生糸の開発と普及の可能性についてさらに考察を重ねているところです。