環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する研究

カーボンニュートラルとFreshwater Carbon

工学研究科 教授 中山 恵介

地球温暖化を防ぐためには、どうしたらよいでしょう。最も有効な方法は、地球温暖化ガスの中で最も影響が大きいと言われている二酸化炭素を増やさないことです。つまり、二酸化炭素の排出量と吸収量が釣り合うカーボンニュートラルを達成すればよいのです。では、日本はどの程度の二酸化炭素を排出・吸収しているでしょうか。現在の日本全国における二酸化炭素の排出量は、1年間で約10億トンです。一方で、最大の吸収源である森林は、1年間で約5000万トンの二酸化炭素を吸収しています。森林の吸収量は、排出量の5%程度ですので、森林だけに頼ってカーボンニュートラルを達成するためには、単純に考えて排出量を95%削減する必要があります。日本では、残念ながら老木の割合が増えており、何もしなければ2030年には森林の二酸化炭素の吸収量は約3000万トンにまで減少すると予想されています。

森林以外の光合成を利用する二酸化炭素の吸収源としては、農地土壌の約800万トン、ブルーカーボンの約130万トンがあります。ブルーカーボンとは、沿岸浅海域の生態系が光合成により吸収する二酸化炭素のことです。将来に向けて、森林による二酸化炭素の吸収を維持することは難しく、農地土壌やブルーカーボンによる二酸化炭素の吸収量を増やさなくてはなりません。2030年におけるブルーカーボンの吸収量は、最大で約500万トンに達する可能性が示されています。しかし、農地土壌や沿岸浅海域における二酸化炭素の吸収量を増やすための面積には限りがあり、新たな二酸化炭素の吸収源を見つけ出す必要があります。その一つが、陸上の水生植物の光合成により二酸化炭素を吸収するFreshwater Carbonです。

Freshwater Carbon研究は始まったばかりで、二酸化炭素の吸収量を十分な精度で評価できていませんが、ブルーカーボンと同レベルの吸収効果が期待されています。国内のブルーカーボンの対象となっている沿岸浅海域の面積は約28万haであるのに対し、Freshwater Carbonの対象面積は約32万haです。ブルーカーボンと同等の吸収効果を有すると考えると、年間で約600万トンがFreshwater Carbonにより吸収できる可能性があります。神戸市と神戸大学は、Freshwater Carbonによる二酸化炭素の吸収量を評価する手法について研究しており、貯水池やため池における植栽を通じて二酸化炭素の吸収源としての可能性を探っています。植栽は、学生団体「Re.colab KOBE」などの協力の下、貯水池やため池にて行われています。地球温暖化を防ぐことは火急の課題ですので、一刻も早いFreshwater Carbonによる二酸化炭素の吸収量の定量化が期待されます。

「Freshwater Carbonのロゴ」
「Freshwater Carbonのロゴ」
「Re.colab KOBEによる植栽(神戸市提供)」
「Re.colab KOBEによる植栽(神戸市提供)」
「水生植物による二酸化炭素の吸収と貯留」
「水生植物による二酸化炭素の吸収と貯留」