環境に関する教育

農学部演習科目「実践農学」森づくりグループによる里山管理再開の提案

農学研究科 教授 黒田 慶子

神戸大学農学研究科の森林資源学研究室では、森林の保全、病虫害発生メカニズムの解明などに取り組んでいますが、同時に、基礎教育として森林演習(Active learning)に力を入れています。県内外の里山や林業地で3回の宿泊演習を含む1年間のカリキュラムです。科目の目標は、科学データに基づいて森林生態系保全に関する課題を自ら発見し、地元との対話を通じて、現実的な解決策を提案することです。この科目はESD(Education for Sustainable Development)科目および樹木医補の認定科目でもあります。

森林生態系・生物多様性について学ぶ

「放置里山の構成樹種と太さ(神戸市北区)」
「放置竹林の整理伐採と利用(篠山市)」
「捕獲ニホンジカの活用の検討」

日本の国土の3分の2は森林であり、環境や国土保全のためには森林の適切な管理が重要です。しかし、世の中の多くの人には、「森林は自然のまま、人が触らないのが良い」という誤解があります。都市周辺にある里山は農村や農家所有の農用林ですが、半世紀前から燃料や肥料に利用しなくなり、放置(無管理)の状態です。そこでは生物多様性の低下や、病虫害や野生獣類の食害増加があり、「緑豊か」でありながら健康とは言えず、持続が危うい森です。演習では、里山林の構成樹種や地面の芽生えを記録して現状を把握し、10年〜20年後の森林の状態を予測する方法から学びます。森林管理について提案するための基本となる作業です。

森林資源の循環的利用を提案する

演習内容は①森林の植生調査から今後の生態的変化を予測する、②森林病虫害を体験的に学び、森林の予防医学を考える、③野生獣類(ニホンジカ)や外来生物の森林への影響(例:竹林拡大)を知る、などを含みます。調査例(グラフ)では、コナラなどの落葉高木種が少なく、ヤブツバキ、ソヨゴやヒサカキ(緑字)など樹高が高くならない常緑広葉樹が多数を占める構成となっており、将来は高木種の欠けた暗い森になることが読み取れました。この調査から里山資源の循環的利用の意義や、里山林を持続させるにはどういう仕組みが必要かなどについて考えます。さらに、地元での取り組みが必要なことがらや、学生が協力できる活動は何だろうかと考え、学生自身が具体的に提案を行います。

この科目を学ぶことによって、「森林伐採は良くない」、「税金で管理すると良い」などの単純な判断ではなく、科学データを根拠として、現実的な解決策を考える習慣を身につけます。提案は地域連携先の兵庫県篠山市でポスター発表し、またESD演習として学部横断で発表会を行っています。演習の成果から、神戸市と共催で里山散策ツアーの実施や、篠山市で猟師への協力などの波及効果が出ています。

関連情報:http://www2.kobe-u.ac.jp/~kurodak/Satoyama_3.html