環境に関する研究

食品ロス削減による経済便益に関する調査・分析(第Ⅵ期環境経済の政策研究費:環境省)

経済学研究科 特命講師 小島 理沙

国連が定めたSDGsで2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の一人当たり食料廃棄を半減させる目標が掲げられており、世界的にも食品ロスの取り組みは必須になっている。日本も食品廃棄物のうちおよそ4割が食べられるのに捨てている現状(農水省)があり、2019年5月には食品ロス削減推進法案(議員立法)が衆院本会議で可決され、コンビニエンスストアが食品の実質値引き販売を始めるなど国全体で食品ロスへの取り組みが加速している。

本研究は、食品ロスの中でも家庭から出る食品ロスに着目し、神戸大学他4大学とコンサルティング会社のチームで発生抑制方法を研究している。研究は3段階で構成されており、(1)食品ロス発生抑制推進ツールとしての食品ロスアプリの開発(昨年度)、(2)食品ロスの回避便益の経済評価と食品ロスの発生メカニズムの研究(今年度)、(3)食品ロス削減の推進のための全国規模の自治体等ネットワークの基盤構築(次年度)である。本研究グループが2016年度から2017年度にかけて神戸市で過去2年間に実施してきた紙ベースでの食品ロスダイアリー調査により、食品ロスが「記録すること」で経時的に発生量が減少すること、また、食品ロス発生量が対象者に提供する食品保存法に関する情報に影響を受けることなどがわかっている。一方で、紙ベースのダイアリー調査では、より詳細なメカニズムの解明、普及のツールとして使用する点で参加者の手間、調査費用ともに大きい点が課題として上げられる。本研究では、この課題を解決するために、ウエブアプリによる食品ロス専用ダイアリーを開発し、さらに情報提供による対象者の行動変容が期待できることから、より有効な情報の候補として、食品ロスの回避便益の経済評価(食品を捨てるといくら損するか)を行う。食品価格や重量のリストを作成し、2019年度(令和元年度)の秋に全国1000人を対象としたRCT(ランダム化比較実験)を行い検証する。

なお本研究の取り組みは、神戸新聞(「食品ロス、アプリで減らそう 神戸市がモニター募集」2018年12月22日)、毎日新聞(地方版「食品ロス:減らそう 神戸市、記録アプリのモニター募集」2019年1月6日)、読売テレビウェークアッププラス(2019年2月2日)、NHKクローズアップ現代(2019年4月3日放送)などのメディアでも取り上げられ、食品ロス削減に関する先進的な取り組みとして注目を集めている。

食品ロスダイアリーアプリのトップ画面
情報提供廃棄件数の時系列変化(神戸市2017)