環境に関する研究

大学実験排水からの汚泥エミッション削減

環境保全推進センター 准教授 牧 秀志
農学研究科 准教授 井原 一高

大学等の研究機関からの実験排水は、水質汚濁防止法および下水道法等の法令や自治体で制定された規制に沿って排出されていますが、排出者責任の観点においては、重金属等を含む汚泥の更なるエミッション削減が必要です。中でも、排水に含有する重金属の分離方法は従来から様々な方法が提案されていますが、環境保全への取り組みが一層求められる現在、より簡便な操作でより広範な重金属を効率よく分離回収出来る要素技術の開発が、重要な研究テーマとなります。実験排水からの重金属の分離方法としては磁気力を利用したフェライト法があり、特に実験排水処理に広く適用されていますが、この方法は加熱操作を必要とします。本研究では、加熱操作をせずに汚泥を磁気力によって濃縮分離できる技術の開発を目的として、実験排水に含有する汚泥に対し磁性粉を添加する方法によって磁気シーディング(磁性付与)を行い、汚泥の磁気分離について検討を行いました。なお本テーマは、大学等環境安全協議会(大環協)のプロジェクト研究(2018~2019年)として採択されました。大環協は、大学等(大学、高等専門学校、大学共同利用機関及び文部科学省所轄機関)の環境・安全マネジメント、安全衛生管理及び環境安全教育に関する運営と教育を充実させることを目的とする協議会です。

神戸大学の実験排水系施設から採取した汚泥水に対して磁気シーディングを行うため、対象水に強磁性物質として四酸化三鉄(マグネタイト)を添加しました。その後、ネオジム磁石磁気分離装置に一定流量で循環させ、汚泥の磁気分離を行いました。磁場勾配を拡大させるために、磁気分離装置には磁気フィルタとしてステンレス球を用いました。マグネタイトを添加しなかった場合、90分の処理を行っても除去率は50%未満であったのに対し、マグネタイトを添加した場合、図1のように分離開始後わずか10分で重金属固形物の除去率は約90%にも達しました。永久磁石由来の磁場空間において、強磁性物質であるマグネタイトと結合した汚泥に対し磁気力が作用し、除去率が向上したと考えられます。特に、磁気フィルタとして用いたステンレス球によって勾配磁場を変化させることによって、より高効率な汚泥濃縮を実現することが出来ました。これらの知見は、永久磁石由来の磁気力で実験排水中の金属を含む汚泥が濃縮可能であることを示しており、汚泥の磁気分離を目的とした磁気分離装置の設計に寄与すると考えられます。

図1  汚泥の磁気分離における四酸化三鉄の添加の影響。強磁性物質である四酸化三鉄を添加した場合、分離開始後10分で重金属固形物の除去率は約90%に達した。