神戸大学長

皆さん、卒業、修了おめでとうございます。そして、ご家族の皆様方、誠におめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表して心からお祝い申し上げます。

本日、学部学生の卒業生2606名、大学院博士前期課程修了者1191名並びに法学研究科および経営学研究科の専門職学位課程修了者、合わせて95名の方々に、それぞれ学士および修士の学位を授与いたしました。

また、昨日は、課程博士および論文博士 合計238名に博士の学位を授与したところです。このように、多くの卒業生や課程修了者を輩出できましたことは、神戸大学にとって誉であり、誇りに思っております。

さて、みなさんは、これからそれぞれ新たな社会へ出てゆかれ、夢と希望を持って世界に大きく羽ばたこうと、胸が高鳴る思いをされているのではないでしょうか。

神戸という町は、歴史的にみて明治維新以来、アジア諸国とは勿論のこと、西欧とも先進的な異文化との交流を積極的に推進する、比類のない文化を形成してまいりました。そして、20世紀の100年間、開港都市としての機能を充分に発揮し、日本の近代化を先導してきた都市です。

そのような開放的で国際性に富む固有の文化の下、神戸大学は、「真摯・自由・共同」の精神を発揮し、世界最高水準の研究と人間性、創造性、国際性、専門性を培う教育を目指してたゆまない営為を重ね、学問の発展、人類の幸福、地球環境の保全及び世界の平和に貢献してまいりました。

このような神戸大学の風土と文化の下、ここ10年間で約2倍にもなる1100名を超える留学生を世界各国から受け入れております。

神戸大学は、この「国際性」という特色を、より積極的に推進するために、アジアやヨーロッパの世界各国に九か所にもおよぶ海外同窓会や、北京およびブリュッセルに海外オフィスを開設し、グローバル化社会に対応した卓越したネットワーク作りを推進してまいりました。

最近では、この1月にタイ・バンコクにて、韓国、中国、マレーシア、ミャンマーなどからの留学生を含めた同窓会とフォーラムを開催しました。

また、3月にはベルギーのブリュッセルにおいて欧州同窓会の開設と同時に昨年9月に開設しました「神戸大学ブリュッセルオフィス」のオープニング記念シンポジウムの開催を実施してまいりました。

この記念シンポジウムに先立ち、神戸大学のヨーロッパとの学術交流の進展に大きな貢献をいただきましたEU大統領のヘルマン・ヴァン・ロンプイ氏に神戸大学の名誉博士号を授与させていただきました。そして、大統領からは、次のとおり力強いお言葉を賜りました。

すなわち、「神戸大学は、このブリュッセルオフィスを開設することで、世界に開かれた大学であることをすでに明確に示しております。この会議のタイトルである『日欧教育研究連携の新時代』こそが将来に満ち溢れていることを証明していると確信しています。そして今日がまさしくその第1日目です。」

このように世界各国に開設された多くの同窓会やオフィスを利用したグローバルネットワークをベースにして、多様な国々との国際的な交流を深めることによって、神戸大学の教職員、学生そして卒業生・修了生の方々が世界で活躍されるものと考えております。今後、皆さんには是非とも積極的にご活用していただきたいと思います。

神戸大学のもう一つの特色として「学際性」を取り上げることができます。

従来より、神戸大学は学際性・総合性を有し、調和のとれた教育研究を飛躍・発展させるために、新たな教育研究組織の設置や異分野間との連携組織を編成するとともに、幅広く物事を捉えることのできる人材の育成にも努力してまいりました。

さらに、神戸大学の学際性をより発展させるために、本年4月に、ポートアイランドにある理化学研究所の次世代スーパーコンピュータ「京」の東側に「神戸大学統合研究拠点」を開設いたします。

本拠点は、国際的に卓越した学術研究の推進、神戸大学における組織の枠組みを超えた学際的・先端的研究や研究活動を推進するとともに、国内外組織との産学官連携を効果的に推進することを目的としております。

みなさんは、このような神戸大学の「国際性」と「学際性」という特色を兼ね備えた、文化の香り高い教育風土の中で学ばれ、教育を受けてこられました。

このことは、これからのグローバル化時代において、専門知識以外にも、幅広い教養と国際感覚を備え、世界で活躍できる人材が強く求められることから、皆さんの存在感やアイデンティティを大いに発揮できる状況になってくるものと想像しております。

ところで、この3月11日、東北・三陸沖を震源とする国内観測史上最大のマグニチュード9.0の極めて強い「東北地方太平洋沖地震」が起き、岩手県、宮城県をはじめ九つの都県で地震と大津波による甚大な被害を受け、その惨状に言葉を失うほどの衝撃を受けられたことは、皆さんもよくご存知のことと思います。

その被害規模は、人的、物的また経済的にも甚大な規模となり、現在もその被害に対して、必死の努力が行われていますが、復興への道のりは遠く、日本全体への打撃は未知の次元に陥りつつあります。

この震災に対しては、十分な備えをしてこられたはずの施設やシステムであっても、地震後発生した大津波の威力による市町村の破壊、また、二重三重にも防御された原子力発電所の防御システムの破壊が起こり、危機管理が機能不全に陥るなど、ことごとく専門家の方々が想定されていた範囲を遥かに超えた規模でありました。

このようなことは、平成七年に発生した「阪神・淡路大震災」時においても、当時想定されていた規模以上の揺れやライフラインの断絶などが生じたため、家屋のみならず高層ビルや高速道路の倒壊さらに大火災などが発生し大惨事を引き起こしたことは我々の記憶に鮮明に残っております。

このように、地球上の自然界は、我々人類の予想を遥かに超える災害を引き起こす可能性のありうることを証明しています。

人類は、自然に対して如何に未熟であり無知であるかを痛感しますが、だからこそ、我々は絶えず未知との戦いに立ち向かい、知恵と創造力を駆使して、一歩づつ克服してゆく努力を積み重ねてゆかねばなりません。

また、地球規模の問題として地球環境問題も大変危惧されています。

産業革命以来のめざましい発展が、社会に豊かさや便利さ、快適さなど、さまざまな便益をもたらしましたが、今日では、その反面、温室効果ガスによる地球温暖化、酸性雨による森林や湖沼の汚染、廃棄物による有害物質の発生など様々な形で地球環境を大きく損なう弊害が生じています。

そして、地球環境の変化、無計画な開発による公害や水不足、外来種の持ち込みなどによる自然生態系の破壊についても大きな懸念が示されています。

このように、現代社会において我々人類は、自然界に対する無知による災害の拡大や科学技術の急激な発展に伴う社会の構造やシステムの変革がもたらす様々なリスクと対峙してゆかなければなりません。

先程述べました、「東北地方太平洋沖地震」における、想定を遥かに超える規模の災害への対策や、地球規模の環境および生態系の問題は、世界中の多様な学際的な分野の研究者たちが、国際的な連携を強化し英知を結集してこそ、これらの難題に対する解決策を見出し、克服してゆけるものと思います。

このことは、皆さんが、神戸大学の「国際性」と「学際性」という特色を有する教育風土の中で学ばれ、教育を受けられたことが今後大いに役に立つものと信じております。

さあ、卒業・修了される皆さん! 自信を持って、この偉大なる自然に立ち向かって、希望ある新たな「持続可能で安全な社会」の構築を目指してください。

そして、人類のために大いに羽ばたき御活躍されますことを祈念し、平成22年度 学位授与式の式辞と致します。

平成23年3月25日
神戸大学長 福田秀樹