福田学長

皆さん、この実りの秋に博士の学位を取得されましたこと、誠におめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表してお祝い申し上げます。ご家族の皆様の喜びも一塩のことと思います。指導に当られた教員や職員の皆様の多大なる尽力にも感謝と御礼を申し上げます。

今回、課程博士88名、論文博士10名の合計98名、内、海外からの留学生27名の方々が博士学位を取得されました。学位取得者は、文系および理系分野から毎年約300名に達し、内、留学生が占める割合も23%程度となっております。多くの博士学位授与者を輩出し、それも高い国際性を示していることは、神戸大学が国際的な研究総合大学として活動している証であると考えております。

博士の学位は創造性、新規性そして論理性を踏まえた独自性のある学位論文を基本として、評価、授与されます。皆さんは課題を発見し、課題の解決、あるいは実現のための手段・方法を探るために独創的な発想で試行錯誤されたと思います。昼夜を問わず研究活動に没頭されたでしょうし、長年のご努力・ご苦労があったことと推察します。その甲斐あって、厳しい学位審査に合格され、神戸大学の学位を授与されることとなりました。

本日を出発点に皆さんの目の前には未来に向けての無限の可能性が広がっています。それぞれの目標に向かって、果敢に突き進んでいただきたいと思っております。

さて、私たちは今、地球規模の複雑な課題に直面しています。地球温暖化などによる環境問題に思いを致せば、国内でも集中豪雨や全国的な猛暑など従来にない気候変動が起きています。また、エネルギー資源や食糧資源などの確保も、環境問題の影響や政情不安などによって益々不安定、不確実になっています。一昨年の3月11日に発生した東日本大震災から2年半がたちました。未だ復旧・復興への道のりは厳しく、福島原子力発電所の汚染水問題や廃炉へのプロセスなども不透明なままです。そして、今後は南海トラフ地震など想像を超える自然災害に襲われる可能性も出ています。今後、私たちが直面する課題の多くは従来の枠組みや科学技術力だけでは解決できません。世界各国から創造力にあふれた英知を結集し協調して取り組む。そのようなグローバルな課題解決が喫緊となっています。そこではイノベーションにより社会に新たな価値を創造できる人材が不可欠であることは言うまでもありません。今日ここにおられる皆さんには、ぜひとも国際的な人材に育っていただきたいと望むものです。

本学本体も国際化を迫られています。本年度、文部科学省は、日本の大学の国際競争力が低下傾向にある現状を鑑み、「研究大学強化促進事業」を創設しました。大学・研究機関の研究力を高めるのが狙いで、大学等における研究戦略や知財管理等を担う研究マネージメント人材群の確保・活用や、集中的な研究環境改革を組み合わせた研究力強化の取り組みを支援する事業です。

神戸大学は、従来から多様な研究組織を擁する総合大学として、多彩な専門研究を発展させるとともに、連携・融合により新たな学術領域を開拓してきました。今回の事業について「世界最高水準の研究大学」の構築に向け、特色ある先端研究・文理融合研究を強力に推進させることを基本的な方針として「神戸大学の研究力強化実現構想」を申請した結果、高く評価されて採択されました。

最近の学問分野において、「学際」とか「融合」といった言葉が安易に使用されています。本来、このような分野は“核”となる基軸があってこそ初めて存在するものです。

近年、本学は基盤となる専門分野を深化させるとともに、学際的な分野横断組織を構築するための教育研究環境を積極的に整備し、多くの実績を積み重ねてきました。「専門が深化する時代にこそ、横の連携を」というのが本学の独自姿勢なのです。文理融合研究を具体的に促進する体制として、神戸大学は2012年に社会科学系5部局の教員で構成される分野横断組織「社会科学系教育研究府」を設けました。皮切りは2007年。自然科学系の5部局の教員により構成される分野横断組織「自然科学系先端融合研究環」を設置しました。2011年には自然科学系、生命・医学系、人文・人間科学系、社会科学系の四大学術系列に属する教員により構成される「統合研究拠点」も設置しました。

これらの3つの組織間の連携および各組織の機能強化を図りながら、本学を代表するフラッグシップ・プロジェクトに力をいれてゆくことが、特色のある先端研究・文理融合研究を展開することにつながると思います。

皆さんは、このような特色のある恵まれた教育研究の場で、博士号のライセンスを取得されました。先ほど述べました人類社会が直面する複雑な課題に、皆さんなら十分対応できると信じています。

大胆なチャレンジをしていただき、私たち人類と自然が共生し調和する「未来社会」を切り開いていただけることを祈念して、博士学位取得のお祝いの言葉といたします。

平成25年9月25日
神戸大学長 福田 秀樹