本日、学部を卒業される皆さん、大学院前期課程および専門職学位課程を修了される皆さん、卒業並びに修了、おめでとうございます。参列いただいているご家族の皆様にも、神戸大学全構成員を代表いたしまして心からお祝いを申し上げます。

先ほど、学部の卒業生2,553名、大学院修士・博士前期課程修了者1,164名、並びに法学研究科及び経営学研究科の専門職学位課程修了者63名の方々に学士、修士及び専門職学位の学位を授与しました。

さて、皆さんはこれまで大学・大学院という組織の中で教育を受け、研鑽を積んでこられました。そして、これから夢と希望を胸に秘め、限りなき未来に飛び立とうとされています。しかしながら、その未来には、複雑で厳しい世界が待ち受けているものと思います。

私たちは今、グローバル社会において様々な課題と向き合っています。イギリスのEUからの離脱を巡る混乱や大衆迎合政党の躍進など、統合を進めてきた欧州諸国の動揺、アメリカ合衆国大統領の自国利益を優先する言動、東アジア地区をめぐる関係国の様々な駆け引きなど、世界では自国と他国との関係の在り方を見直す動きが次々と起こっています。地球温暖化に伴う異常気象や水資源管理の問題、原子力や再生可能エネルギーなどのエネルギーミックスの問題、周辺国を巻き込んだ内戦・紛争、宗教的な軋轢等々、どれひとつとっても関係する各国の協力が無ければ解決の糸口にたどり着くことは困難です。極端な自国優先主義では、解決は不可能な問題が山積しているのです。また、技術的にも複数の分野の有機的な協力によって初めて解決の方向性が見えてくるものと思われます。

神戸大学が唱えている「学際融合」、「異分野連携」という発想はかなり以前から存在し、大学や研究機関において様々な試みがなされてきました。しかし、今ほどこの複眼的なアプローチが求められている時代はないと思います。「連携」や「融合」は、既成概念にとらわれない、インパクトのある成果を生み出す原動力となり得ますが、これは大学などアカデミアの世界に限ったことではなく、企業など実社会においても同様のことが言えます。狭い専門領域に閉じこもることなく、広い視野を持って他分野との協力関係を築き上げることが大切です。

そして、この異分野との連携・融合という考え方は、文系、理系の垣根も超えて追求すべきものであります。大学改革に関連して、人文・社会系分野の必要性について議論が展開されていることを、皆さんもご存じかと思います。私は大学が輩出すべき人材は、みずからの専門に立脚しながらも他分野を俯瞰できる総合力を備えるべきであると信じています。例えば、情報技術の急速な進展に伴い、ビッグデータの活用が社会的な課題としてクローズアップされています。情報という素材を最大限活用するには、文系、理系の発想、技術がともに要求されることになり、社会はそのような人材を求めており、本学は数理データサイエンス、計算社会科学といった分野でそのニーズに応えようとしています。

さらに、人工知能の急速な発展は、社会の在り方を変えると言われています。現在存在する職業の大半が人工知能によって置き換えられたとき、人間とは何かという根源的な問いを、我々に突き付けることになると思います。

 

神戸大学はその115年を超える歴史と伝統を通じて、文系と理系のバランスの良い総合大学に発展してきました。その強みを活かして、平成28年4月から文理融合の「科学技術イノベーション研究科」を設立し、自然科学系の研究で生まれた「種」を、社会科学系の知見を活用して社会実装まで持っていく教育・研究を展開しており、既にバイオ関係の大学発ベンチャーなど具体的な事例が動き始めています。将来的には、環境問題、医療問題などへの貢献が期待されています。これは、神戸大学創設以来の理念「学理と実際の調和」にも合致する試みだと考えています。この理念は、本学の出発点である神戸高等商業学校の初代校長 水島銕也先生が唱えられた言葉ですが、学理とともに実務を重視された伝統として受け継がれ、時代を超えた本学の理念となっています。

今日ここにおられる皆さんは、このような気風や伝統を有する神戸大学での学位を取得され、高い専門力と実践力の双方を兼ね備えておられます。今回が平成最後の学位記授与式となりますが、新たな年号のもとでも、是非ともグローバルな課題に挑戦者として挑み、本学で学ばれ培われた実力を遺憾なく発揮され、世界に貢献できる人材として、また一方で、神戸市、そして兵庫県は皆さんのような若年層の人口流出が課題となっていることを頭の片隅にとどめていただき、少し矛盾しているかもしれませんが、いつの日か地元に戻って活躍いただくことも期待して、私の式辞といたします。

 

平成31年3月26日

神戸大学長 武田 廣