大阪大学大学院情報科学研究科の清水浩教授・戸谷吉博准教授と神戸大学大学院理学研究科の秋本誠志准教授の研究グループは、微細藻類シアノバクテリアの超強光ストレス耐性株を指向性進化実験によって獲得し、この細胞が強光ストレス環境下で生育するための鍵因子を世界で初めて明らかにしました。
シアノバクテリアは、光合成によって光を利用してエネルギーを作り出し、大気中の二酸化炭素から燃料やポリマー素材など様々な有用物質を作り出すことができる魅力的な微生物です。しかし、真夏の太陽光のような強すぎる光は細胞にダメージを与え、細胞が生育できなくなるという課題がありました。
本研究では、指向性進化の手法を利用することで、徐々に光を強くしながら長期間に渡って細胞を植え継ぐことで、超強光ストレス下でも生育可能な進化株を取得しました(図1)。この進化株は、超強光下でも生育できるだけでなく、弱光環境でも野生株と変わらない生育を示しており、従来とは異なる仕組みによる強光耐性能力を獲得したと考えられました。そこで、この進化株についてゲノム変異解析や転写解析、光化学系の解析を行うことで、超強光条件下で生育できる理由を明らかにし、強光ストレス下で生育するための鍵となる因子(2つの遺伝子の変異)を世界で初めて明らかにしました。これにより、シアノバクテリアの有用物質生産菌に同定した遺伝子変異を導入することで、超強光下における有用物質生産の高効率化への応用が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Communications Biology」誌に、3月16日に公開されました。
ポイント
- 微細藻類シアノバクテリアが超強光ストレス※1環境下で生育するために必要な遺伝子変異を発見
- シアノバクテリアは、光合成※2により、燃料やポリマー素材など様々な有用物質を作り出すことができる。しかし、強すぎる光では、細胞がダメージを受け、生育できなくなるという課題があった。
- 光合成を効率化するには強い光で培養する必要があるが、強すぎる光では細胞が増殖できない。指向性進化※3の手法を利用することで、超強光下でも生育可能な進化株を取得し、超強光条件で生育するための鍵因子(2つの遺伝子の変異)を発見
- 光エネルギーを利用した光合成微生物による有用物質生産の高効率化への応用に期待
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、シアノバクテリアの有用物質生産菌に同定した遺伝子変異を導入することで、超強光下における有用物質生産の高効率化への応用が期待されます。
用語解説
- ※1 強光ストレス
- 細部の消費能力を超えた余剰な光を吸収すると、光合成の効率が低下するだけでなく、光エネルギーによって細胞が損傷を受ける。シアノバクテリアは集光アンテナの縮小など、ある程度の適応機能を持つことが知られている。
- ※2 光合成
- 植物や藻類などが光エネルギーを吸収し、化学エネルギーに変換する生化学反応。光合成によって獲得したエネルギーや還元力を利用して二酸化炭素を固定し、生育に必要なアミノ酸などの分子を合成する。
- ※3 指向性進化
- 細胞は増殖する過程で一定の確率で突然変異を生み集団の多様性を作り出します。目的とする特性と細胞増殖が連動するように培養環境を設計し、継代培養を繰り返すことで、集団の中に目的特性を持った個体が選抜されるように進化させる方法。
論文情報
- タイトル
- “Mutations in hik26 and slr1916 lead to high-light stress tolerance in Synechocystis sp. PCC6803”
- DOI
- 10.1038/s42003-021-01875-y
- 著者
- Katsunori Yoshikawa, Kenichi Ogawa, Yoshihiro Toya, Seiji Akimoto, Fumio Matsuda and Hiroshi Shimizu
- 掲載誌
- 米国科学誌「Communications Biology」(オンライン)