鹿児島大学 天の川銀河研究センター 特任准教授 馬場淳一は、神戸大学大学院理学研究科の斎藤貴之准教授、国立天文台の辻本拓司助教らと共同で独自の理論モデルを構築し、天の川銀河(銀河系)における主要な元素の循環過程を調べました。その結果、太陽系が約46億年前に、現在の位置よりも銀河系中心に近い場所で誕生したことが明らかになりました。この発見により、太陽系は長い年月をかけて、天の川銀河内を移動しながら進化してきたことが示唆されています。また、我々の研究チームは、この理論モデルに基づき、天の川銀河全体における惑星材料物質の分布を予測することに成功しました。その結果、天の川銀河の内側では大型の惑星が形成されやすい一方で、外側では水を豊富に含む小さな多数の惑星ができる可能性が示唆されています。この予測は、「銀河系惑星学」という新しい研究分野を開拓する上での重要な第一歩となるでしょう。

本研究の成果は、2023年10月9日にMonthly Notices of the Royal Astronomical Societyで公開されました。

研究背景

私たちの太陽系は、天の川銀河(または銀河系)の中に位置しています。この太陽系は約46億年前に天の川銀河のどこかで誕生しました。そして、現在は銀河系中心から約2万7千光年離れたところを周回運動しています。しかし、太陽系はその誕生から現在までの約46億年の間、ずっと同じ場所を周回運動してきたのでしょうか?

この疑問の答えを見つけるカギは、太陽系の元素組成にあります。私たちの身の回りには多くの元素がありますが、水素やヘリウムなどの軽い元素は、宇宙が生まれた時のビッグバンでできたものです。それに対して、私たちの体の主成分である炭素や酸素、地球の地殻・マントル・コアなどを作っているケイ素・マグネシウム・鉄などの重い元素(重元素 または金属元素)は星の進化過程で作られました。これらの元素は、星が生まれ変わる度に増えていきます。このような銀河における元素の循環を「銀河化学進化」と呼びます。

興味深いことに、太陽系の重元素の量は、太陽の周辺にある同じ年代の他の星々と比べて異なっています。なぜなのでしょうか?実は、銀河の中心部と外側で元素の量に違いがあることが知られています。この事実から、太陽系はもともと銀河の中心に近い場所で生まれ、その後、今の位置まで移動してきたのではないかと考えられています。

馬場特任准教授らは、この謎を解くために、天の川銀河の化学進化の理論モデルを作り、太陽系がどこで生まれたのかを明らかにしようとしました。さらに、天の川銀河のさまざまな場所で、どのような惑星系が誕生する可能性があるのかを予測しました。

研究内容・成果

私たちの体や地球を作る主要な元素として、水素・炭素・酸素・マグネシウム・ケイ素・鉄などが挙げられます。これらのうち、水素を除く重元素は、星の進化過程で合成されます。

重元素の供給過程は星の質量によって大きく変わります。具体的には、酸素・マグネシウム、ケイ素の一部は、太陽よりも10倍以上の質量をもつ星の内部で合成され、その星が最後に経験する重力崩壊型超新星爆発 (II型超新星爆発) を通じて宇宙空間にばらまかれます。炭素の大部分は、太陽よりもやや重い星が漸近巨星分枝星 (AGB星) の段階に進化した際に生じる恒星風(注1)によって宇宙空間に供給されます。さらに、ケイ素の一部や大部分の鉄は、太陽と同程度の質量の星の末期に残る白色矮星が、伴星(注2)からのガスの降着や白色矮星同士が合体を経て生じるIa型超新星爆発により、宇宙空間の放出されるとされています。

異なる質量の星からの重い元素供給と星の寿命の違いは、銀河内の元素組成と変動に影響を与えます。例えば、質量の大きい星は寿命が短く、短い期間 (誕生後 1,000万年程度) で多くの重い元素を生成し宇宙に放出します。対照的に、質量の軽い星は寿命が長く、誕生から10億年ほど後にゆっくりと重い元素を供給します。そのため、星形成が進む速さで宇宙空間に存在する元素の組成が異なることになります。つまり、星形成の歴史が、星に含まれる重元素量とその組成の変動に反映されるのです。特に、天の川銀河の中心部では重い元素が多く、活発な星形成が行われていることが示唆されています。

この研究では、このような異なる星の進化プロセス(II型超新星、Ia型超新星、AGB星)を考慮した銀河化学進化モデルを構築し、太陽系が誕生した46億年前に、太陽系の重元素組成に到達する銀河系内の場所を探査しました。図1は、馬場特任准教授らのモデルが予測する、さまざまな天の川銀河の中心距離 (半径) の元素の相対存在度の時間変化です。これを見ると、太陽が誕生した46億年までに太陽系の重元素組成に達するのは、銀河系中心から約1万6千光年の位置だとわかります。現在の太陽系の位置は約2万7千光年ですので、馬場特任准教授らの計算結果から、太陽系は現在よりも約1万光年ほど内側で形成された可能性が浮かび上がりました。

図1:馬場特任准教授らによる天の川銀河の化学進化の理論モデル (左) と、銀河系中心からのさまざまな距離における重元素 (鉄と水素の割合) の時間変化の様子 (右)

天の川銀河は内側ほど早い時期に星形成活動が活発になり、重元素量が早い段階で増えていく。重元素量の変化の様子を各距離ごとに計算して、太陽系が誕生した46億年前に太陽系の重元素量に到達する距離は、銀河系中心から1.3万光年~2万光年の間であることを見出した。現在、太陽系は中心から約2.7万光年の距離に存在するため、太陽系は誕生から46億年の間に約1万光年ほど外側に移動してきたと予測される。

天の川銀河の内側の領域は星形成活動が活発な場所で、超新星爆発が頻発し、多くの巨大なガス雲も存在します。もし太陽系が現在よりも中心に近い位置で生まれ、そこにとどまっていた場合、今よりも頻繁に巨大ガス雲との遭遇や近隣での超新星爆発からの宇宙線(注3)にさらされ、生命の誕生や進化に影響を受けたかもしれません。太陽系がこのような危険領域から現在の位置に移動してきたことで、私たちは安全な環境で生存できるようになったかもしれません。

さらに、天の川銀河の化学進化から、太陽系の誕生地の推定の他に天の川銀河内で形成される惑星系の多様性に関しても予測を与えることができます。天の川銀河内の異なる位置は、異なる星形成の歴史を経てきているため、重元素の組成が異なります。もし太陽系が銀河系内の全く異なる場所で誕生していた場合、含まれる重元素の組成が全く異なり、それに応じて惑星系の形成や生命の発生も異なる可能性があります。

馬場特任准教授らの理論モデルは、天の川銀河内の異なる位置と時刻における重元素の組成を予測し、それに基づいて惑星系の形成を予測も行いました。図2は、この予測を示しています。銀河系の内側ほど惑星の材料物質が豊富で、さらに、鉄コアの大きな岩石惑星が形成される可能性があます。一方、外側では水の豊富な惑星系が誕生する可能性があることを予測しました。

図2:馬場特任准教授らによる天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく惑星材料物質の空間分布の時間変化の様子

(左) 銀河系の内側ほど惑星材料物質の総量が多く、巨大ガス惑星をもつ惑星系が誕生しやすい可能性がある。
(中) 銀河系の内側ほど鉄の相対含有量が高く、大きな鉄コアを持つ岩石惑星が誕生しやすい可能性がある。
(右) 外側ほど鉄に対する酸素の相対含有量が高く、水を豊富に含む惑星が形成されやすい可能性がある。

今後の展望

この研究から、太陽系が現在の位置よりも約1万光年ほど銀河中心の近い位置で誕生した可能性が浮かび上がりました。この結果は、銀河系中心に近い位置で誕生した太陽系が、約46億年の間にどのような経路でどの時点で現在の位置に移動してきたのか、さらに、そのような大移動を促す原因はなんだったのかという新たな疑問を投げかけています。

馬場特任准教授らの研究チームは、太陽系の大移動には、天の川銀河の渦状腕構造や棒状構造の性質が密接に関わっていると考えています。現在、天の川銀河の構造や詳しく解明するための研究が活発に行われており、位置天文観測衛星 Gaia(注4)や地上分光サーベイAPOGEE(注5)などにより数百万から数億個の星々の距離、運動、元素組成の観測が進んでいます。天の川銀河の詳しい構造や成り立ちが明らかになることで、太陽系の大移動についての疑問に対する答えや手がかりが得られることが期待されています。

この研究は、私たちの太陽系が天の川銀河内のどのような環境で誕生し、進化してきたのかを理解する上で重要な一歩です。将来的には、太陽系の起源と進化に関する疑問に対する深い洞察をもたらし、「われわれの起源」についての新しい知見をもたらすでしょう。

用語解説

注1) 恒星風

恒星から放射される高速ガスの流れ。太陽の太陽風として知られるものも、恒星風の一種。

注2) 伴星

恒星の周りを公転している別の恒星のことを指す。質量の大きな方を主星、小さな方を伴星と呼ぶ。

注3) 宇宙線

宇宙空間に存在する高エネルギーの放射線のこと。主に陽子などの荷電粒子が、超新星爆発に伴う衝撃波で加速されて生じたと考えられている。生物の細胞に宇宙線が当たると被爆して破壊されてしまう。

注4) Gaia

ヨーロッパ宇宙機関が2013年に打ち上げた位置天文観測専用衛星。太陽と地球の重力がつりあう安定点に存在して、全天の星の位置、距離、速度を測定している。

注5) APOGEE (Apache Point Observatory Galactic Evolution Experiment)

アメリカのニューメキシコ州のアパッチポイント天文台の2.5 メートル・スローン財団望遠鏡と、チリのアタカマのラス・カンパナス天文台にある2.5メートル・イレーヌ・デュポン望遠鏡に取り付けられた分光観測装置。星の光を波長ごとに分けて観測する(分光観測)ことで、星の大気に含まれているさまざまな元素の量を測定することができる。

謝辞

本研究は、主に日本学術振興会JSPS科研費(21H00054, 21K03633)の支援を受けて行われたものです。また、JSPS科研費(18H01258, 19H05811, 22K18280, 23H00132, 21K03614, 22K03688, and 22H01259)の支援を受けています。

論文情報

タイトル

Exploring the Sun’s birth radius and the distribution of planet building blocks in the Milky Way galaxy: A multi-zone Galactic chemical evolution approach

DOI

10.1093/mnras/stad3188

著者

Junichi Baba, Takayuki R. Saitoh & Takuji Tsujimoto

掲載誌

Monthly Notices of the Royal Astronomical Society

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研究者