富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)と国立大学法人神戸大学(所在地:兵庫県神戸市、学長:藤澤 正人)は、AI技術を活用して腹部の造影CT画像※1から膵臓がんが疑われる所見の検出を支援する技術を共同で開発しました。本技術により、医師の負担を軽減し、より精度の高い診断につながることが期待できます。

膵臓がんは、初期には自覚症状が出にくく早期発見が難しい病気です。腹痛や体重減少などの自覚症状が現れた段階では、周辺組織への浸潤を伴う進行がんとなっているケースが多いため、がんと診断されてから5年後の相対生存率は12.5%※2とがんの中で最も低い状況です。また、膵臓がんによる国内死亡者数は年々増加傾向にあり、2020年には37,000人を超えて、肺がん、大腸がん、胃がんに次いで第4位です※3。予後を改善するためには早期発見が極めて重要ですが、初期の小さながんは画像検査で描出されないこともあるため、膵臓がんの直接所見である腫瘤だけでなく、膵臓の萎縮や膵管の拡張・狭窄などの間接所見にも着目することが重要です。しかし、膵臓は形状が複雑で、解剖構造の把握も他の臓器に比べて難しいため、膵臓がんの診断には高度な専門知識を要するという課題があります。

富士フイルムと神戸大学は、CT画像から膵臓がんの早期発見を支援するAI技術の開発を目指し、2021年8月より、神戸大学大学院医学研究科の児玉 裕三教授・村上 卓道教授を中心としたチームのもとで共同研究を進めています。今回、膵臓がん患者を含む約1,000症例の造影CT画像をAIに学習させ、腹部の造影CT画像から膵臓がんが疑われる所見を検出する技術の開発に成功しました。本技術は、膵臓がんの直接所見である腫瘤のみならず、間接所見である膵萎縮・膵管拡張・膵管狭窄などを検出します。本技術を活用して医師の負担を軽減することで、より精度の高い診断につながることが期待できます。

腫瘤(直接所見)および膵管拡張・膵管狭窄(間接所見)を検出した症例(ステージ1)
腫瘤(直接所見)が描出されていないが膵萎縮・膵管拡張・膵管狭窄(間接所見)を検出した症例(ステージ0)

富士フイルムと神戸大学は、本研究を通じて、今回確立した造影CT画像から膵臓がんが疑われる所見を検出する技術を応用し、一般的な検診や人間ドックで撮影される非造影CT画像からも同様に膵臓がんが疑われる所見を検出するAI技術の開発を進めます。さらに将来的には、膵臓がんが発生する前段階で見られる膵臓の腫大や萎縮などの軽微な形状変化を検出し、膵臓がんに罹患するリスクの高さを評価する技術の開発にも取り組んでいきます。これらの技術で潜在的な膵臓がん患者を拾い上げ、早期治療による予後の改善と膵臓がん患者のQOL向上を目指します。

国立大学法人神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野 教授 村上卓道のコメント

「早期の段階の膵臓がんを単純CT等のスクリーニングレベルの検査で拾い上げる方法は確立しておらず、根治が期待できる状態で精査まで辿り着かないことが現在の課題と言えます。また精査に辿り着いたとしても、精査画像検査の精度や放射線科医、膵臓専門医の地域偏在性、人員不足が原因となり、適切な診断がなされないことも問題となります。AI画像診断は短時間で大量の画像をスクリーニングする状況において特に威力を発揮することから、疾患の存在の可能性を判断するツールとして大きな期待が寄せられています。検診レベルで早期に膵臓がんを拾い上げるAI画像診断の開発は、早期発見・早期治療が特に大事な膵臓がんの予後を改善するうえで非常に有用なツールになると考えられます。」

国立大学法人神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野 教授 児玉裕三のコメント

「膵臓がんは疑うことさえ出来れば、私たち膵臓専門医による内視鏡検査で確定診断が可能です。また、膵臓がんの前駆病変が進行がんへ至るには年単位の期間を要すると考えられており、この間に早期診断・早期治療を行えば予後を大きく改善することが期待できます。しかし、内視鏡検査の多くが術者依存的であることや膵臓専門医の地域偏在性などは、診断の遅れの要因となり得ます。本研究で開発するAI技術を用い、地域格差のない膵臓がんの拾い上げ、さらには膵臓専門医による正確な診断へと繋げる効率的なシステムを構築することにより、膵臓がんの早期発見と予後改善を目指します。」

富士フイルム株式会社 執行役員 メディカルシステム開発センター長 鍋田敏之のコメント

「膵臓がんの早期発見および治療のために放射線画像診断システムや内視鏡などを含めた多面的な取り組みを推進されている神戸大学との共同研究は、社会にとっても非常に有意義なプロジェクトと考えております。本研究において、膵臓がんの診断課題とされている早期診断や医師の負担軽減につながることを示唆する結果に至ったことを大変嬉しく思います。 非造影CT画像にも対応する診断支援技術として早期に確立し、健診などの医療現場における社会実装を目指します。」

  • ※1 臓器や血管にコントラストをつけて、画像を見やすくするために造影剤を使用したCT画像。
  • ※2 公益財団法人がん研究振興財団:がんの統計 2022, 院内がん登録 2013-2014年 5年生存率集計より。
  • ※3 公益財団法人がん研究振興財団:がんの統計 2022, がん種別統計情報より。

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