株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (以下「 ATR 」) と国立大学法人京都大学 (以下「 京都大学 」) は、相互に連携して電波COE (Center Of Excellence) 研究開発プログラムを2019年より推進してきました。このプログラムは、将来のSociety5.0時代の到来を見据え、電波利活用強靭化に資する複数 (5つ) の研究開発を若い研究者/技術者を研究代表者に据えた産学連携プロジェクトとして推進し、短期間での研究成果の創出と人材育成を目指すというものでした。プログラムでは、研究成果創出と人材育成を両立させるために、最新研究環境の構築と提供やメンターによる指導も合わせて実施しました。4年間の取組みを経て、目に見える研究成果が得られましたのでこの度公表いたします。

取組んできた技術課題は5つあります。本学からは、システム情報学研究科の三宅洋平准教授と仁田功一准教授が、「技術課題5:三次元全方位走査フェイズド・アレイ・レーダーの研究開発」に参画しました。以下にその体制と研究開発成果についてご紹介します。

なおその他の1~4の各課題内容についてはATRのプレスリリースをご覧ください。

技術課題5

技術課題名
三次元全方位走査フェイズド・アレイ・レーダーの研究開発
研究代表者
WaveArrays株式会社 代表取締役 賀谷信幸
研究体制
WaveArrays、神戸大学

研究概要

本研究開発目標は、高速測定可能なレーダーを目標として三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナを開発し、その性能を実証することです。更に種々の有用な応用に適したアンテナに発展させて、社会実装を目指します。三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナは、前例のない周囲全方位に電子的にビーム走査可能なフェイズド・アレイ・アンテナで、汎用な使用目的から宇宙デブリの観測まで多くの有用な応用に適応できるアンテナです。目標達成のために、三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナのハードウェアの高性能化と高機能化、最先端技術によるデータ処理システムと高速アルゴリズムの開発を実施しました。三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナとは、ポール内にアンテナ素子を一次元に並べ、複数のポールアンテナを二次元的に配置することにより、三次元の立体構造に拡張し、全方位にメインビームを走査可能にしたフェイズド・アレイ・アンテナです。パラボラアンテナで使用している機械式駆動装置を用いることなく、電子的かつ超高速に天空全方位を走査可能なアンテナです。デジタル・ビーム・ホーミングの手法を用いることにより、受信データを取得した後に所要の通信対象を選別することが可能となり、アンテナ利得を最大にし、多くの通信を同時に行うことが可能となる大きな長所を持つアンテナです。応用として、気象や障害物測定などのための超高速全方位走査レーダー、複数衛星との同時通信用アンテナ、自動追尾ポータブル・アンテナなど、従来のパラボラアンテナに代わる次世代のビーム走査アンテナです。本研究では、三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナの技術を確立するために、宇宙ステーションから放出された小型衛星の信号を受信し、その性能を実証しました。また、切れ目のない全方位性を高めたアンテナ素子を実現するために専用MMICを設計試作し、実用的な性能を得ることに成功しました。

研究成果内容

1. 衛星受信用三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナの性能評価

既製品のディスクリートICを用いた衛星受信用Sバンド三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナの性能評価として、衛星からのRF信号の受信試験を実施しました。2023年1月に宇宙ステーションから放出された小型衛星からの信号を、三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナで受信することに成功しました。受信した仰角が軌道と一致、信号の帯域幅が一致、中心周波数が低い周波数にシフトし、衛星のドプラーシフトと一致したことから、小型衛星からの信号と判断し、衛星担当者からの確認も得ました。今後、更にアンテナの性能を確認し、カナダとスエーデンの極域の受信基地での衛星同時受信の試験を実施します。

2. 三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナ用MMICの開発設計

RF回路を小型化し、アンテナ素子と一体化するために、RF回路を一つの専用MMICに集約することを目指しました。2021年に米国GlobalFoundries社のシャトル便にTape Outしたアンテナ素子用MMICでは、SバンドのLNAで28dBのピークゲインを得ました。ミキサーの変換ゲインでは、試作したMMICで設計以上のゲインを得ました。XバンドのLNAとミキサーを直結した回路では、RF入力からIF出力の変換ゲインとして設計通りで、実用レベルの結果を得ました。今後は、ディスクリートICに代わり、フェイズド・アレイ・アンテナにMMICを実装し、三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナを完成させ、レーダーをはじめ種々の有用なアンテナとして社会実装を進めます。

6/6 電波COEシンポジウムの開催

なお、電波COE研究開発プログラムの推進、5つの研究開発成果の詳細を報告、議論するシンポジウムを以下の通り本年6月に開催する予定です。合わせてご案内いたします。

イベント名
第4回 電波利活用強靭化に向けた電波COEシンポジウム
日時
2023年6月6日(火曜日)13:00-18:00
場所
京都テルサ(ハイブリッド開催)大会議室(B, C)
アクセス・駐車場
参加費
無料
申込・プログラム等詳細
第4回 電波利活用強靭化に向けた電波COEシンポジウム

研究助成

本研究開発プログラムは、総務省SCOPE(受付番号JP196000002)の委託を受けて実施しました。

関連リンク

研究者