神戸大学内海域環境教育研究センターの川井浩史特命教授と、北海道大学室蘭臨海実験所の本村泰三名誉教授は、褐藻の一種、クジャクケヤリ Sporochnus dotyi の藻体の先端にある房状の同化糸※1が緑色に輝くように見える現象が、同化糸細胞内に含まれるイリデッセントボディ※2と呼ばれる直径 15 µm 程度の球状構造の内部に、直径 150 nm 程度の微細な顆粒が結晶のように規則的に配置することで生じていることを明らかにしました。一方、クジャクケヤリと近縁の種であるケヤリもイリデッセントボディーを含んでいますが、内部の構造は不規則であり、緑色に輝く現象は観察されません。これは宝石のオパールが照明の向きによってさまざまな色を示すのと基本的に同じ原理と構造に基づく現象で、構造色※3と呼ばれています。クジャクケヤリは藻食魚の多い暖温帯から亜熱帯の海域の水深10m以深の比較的深いところに生育しており、外敵に対する警告色またはカモフラージュの機能を持っている可能性が示唆されています。これまで海藻類で構造色が生物間のコミュニケーションに関わる役割を持っていることが示された例はほとんどなく、今後、構造色が海藻の生活戦略において果たしている役割の解明が期待されます。

この研究成果は、5月7日に、ヨーロッパ藻類学会誌 『European Journal of Phycology 』に掲載されました。

図:クジャクケヤリ(左)とその藻体の先端の毛の細胞の中にある顆粒がオパールのように光る様子(右)  (スケールバー:10µm)

ポイント

  • 褐藻「クジャクケヤリ」が構造色を示すことをケヤリ目の種で初めて発見した。
  • 構造色を示す「クジャクケヤリ」と構造色を示さない「ケヤリ」のイリデッセントボディーの微細構造の比較から、内部のナノスケールの顆粒の結晶構造により構造色が生じることを明らかにした。
  • クジャクケヤリの構造色は藻食魚などの外敵に対するシグナルとして使われている可能性がある。

研究の背景

シャボン玉やコンパクトディスク(CD)などの表面にみられる鮮やかな色は、そこに含まれている色素ではなく、表面のナノスケールの微細な構造での光の干渉や回折によって生じており、構造色と呼ばれています。生物においては玉虫の翅やクジャクの飾り羽根など、さまざまな動物で構造色が知られており、その多くは生物間のコミュニケーションに関わる機能を担っていると考えられています。

海藻でも一部の種が構造色を示すことが知られていましたが、そのメカニズムや機能については不明な点が多く残されています。海藻はすべて葉緑体に緑色の光合成色素であるクロロフィルを含んでおり、緑藻は陸上の植物と同様に緑色を示しますが、別の海藻のグループである紅藻は大量に含まれているフィコビリンにより赤色を、また褐藻はフコキサンチンにより黄褐色を呈します。褐藻のうち、日本では以前から、大名行列の毛槍のような形をしていることから「ケヤリ」 Sporochnus radiciformis と命名された種が報告されており、この種も他の褐藻同様に黄褐色をしています (図1D) が、紀伊半島などの水深10m以深の海底には通常のケヤリとは異なり緑色の蛍光色のような外観を示すものが生育していることが地元のダイバーの間で知られていました (図1A)。そこで川井特命教授はこの海藻の分類を再検討し、この海藻はケヤリとは独立した種で、1982年にハワイで新種として記載され、ハワイの固有種であると考えられてきた種 Sporochnus dotyi と同種であることを明らかにしました。また、クジャクケヤリという和名を提唱するとともに、この緑色の外観が構造色であることを報告しました(Kawai et al. 2023)。海藻における構造色は、褐藻ではこれまでアミジグサ目、ヒバマタ目だけで知られており、ケヤリ目では初めての報告でした。しかしながら、前述のように海藻類での構造色のメカニズムや役割については、不明な部分が多いことから、今回、その解明を目指して、構造色を持つクジャクケヤリと構造色を持たないケヤリの比較研究を行いました。

研究の内容

今回、褐藻クジャクケヤリが構造色を示すメカニズムを明らかにするため、その構造色について詳細な観察を行うとともに、電子顕微鏡による細胞微細構造の解析を行いました。その結果、ケヤリの仲間(ケヤリ目)に特徴的な藻体の先端にある束状の細胞糸(頂毛)の細胞に含まれる直径 15 µm 程度のイリデッセントボディと呼ばれる球状の小胞が構造色をもたらしていることを確認しました (図1B)。また、照射した光の波長によってイリデッセントボディーでの反射の程度が異なり、緑色や青色が強く反射されるために緑色または宝石のオパールのような構造色が生じることを明らかにしました。

ケヤリの仲間のイリデッセントボディは浸透圧ショックなどのわずかな刺激でも壊れるため、急速凍結法による電子顕微鏡観察を行いました。その結果、構造色を示す「クジャクケヤリ」では内部に直径150 nm程度の、可視光の波長より短く均質な顆粒が結晶のように規則的に配置していることが明らかになりました (図1C)。この構造は、構造色によってさまざまな色に発色するオパールの構造と非常に良く似ています。

一方、クジャクケヤリの近縁種だが構造色を示さない「ケヤリ」も頂毛の細胞にイリデッセントボディを含んでいますが (図1E)、内部の顆粒の直径は不規則で結晶構造は見られません (図1F)。ケヤリでも、はじめはクジャクケヤリ同様にイリデッセントボディー内に微細な顆粒が分泌されますが、それらが徐々に癒合して大きくなるため、不規則な大きさになると考えられます。これらのことからクジャクケヤリはイリデッセントボディのオパールのような微細な顆粒の結晶構造が構造色をもたらしていることが明らかになりました。

図1:クジャクケヤリ(上段)とケヤリ(下段)

(A) 緑色の構造色を示す頂毛 (B) 透過照明と落射照明で観察した頂毛:内部にイリデッセントボディが見える (C) 透過電子顕微鏡像。内部の顆粒はほぼ同じ直径で規則的に配置している。(D)顕著な構造色を示さず黄褐色にみえる頂毛 (E) 透過照明と落射照明で観察した頂毛:内部にイリデッセントボディが見える (F) 透過電子顕微鏡像。内部の顆粒は癒合により不規則な大きさを示す。

(スケールバー:B=10 µm、C&F=1 µm、E=50 µm)

 

褐藻における構造色は、潮間帯と呼ばれる浅い水深帯に生育しているホンダワラ類(ヒバマタ目)の一種などでは、強く変化の大きい太陽光への適応など、光合成に関わる機能が指摘されていました。しかしながらクジャクケヤリではその生育環境やイリデッセントボディーの配置などがヒバマタ目との種とは大きく異なり、その機能は光合成に関わるものではないと考えられます。

一方、分子系統学的解析の結果から、(ケヤリ属)ではクジャクケヤリが最も早く進化したことが明らかになっており、ケヤリは2次的に構造色を失ったと考えられます。また、クジャクケヤリ、ケヤリのイリデッセントボディーが壊れると、細胞全体が短時間で破壊される、反応性の高い物質を含んでいます。また、クジャクケヤリは藻食性の魚類が多く生育する、暖温帯から亜熱帯に分布するのに対し、ケヤリは藻食魚類がそれほど多くない温帯域に分布しています。これらのことから、クジャクケヤリの構造色は外敵に対するカモフラージュまたは警告など、生物間のコミュニケーションに関わる役割を果たしているのではないかと考えられます。

今後の展開

イリデッセントボディーに含まれる反応性が非常に高い物質は、藻食魚などの外敵による摂食を忌避する役割を担っていると考えられ、現在その物質の同定に向けた解析を進めています。これまで海藻類で構造色がこの様な生物間のコミュニケーションに関わる役割を持っていることが示された例はほとんどなく、今後、海藻の構造色がその生活戦略において担っている未知の役割が明らかになる可能性があると考えています。

用語解説

※1 同化糸

光合成(炭酸同化)の機能を担う細胞の糸

※2 イリデッセントボディー

海藻などの細胞内に含まれ、光が当たるとイリデッセンス(虹色)と呼ばれるさまざまな色を呈する構造

※3 構造色

内部に含まれる色素ではなく、表面の微細な(ナノスケールの)構造によって生じる色

参考文献

Kawai, H, Sherwood, A.R., Ui, S. & Hanyuda, T. “New record of Sporochnus dotyi (Sporochnales, Phaeophyceae) from Kii Peninsula, Japan”, Phycological Research 71: 100–106. (2023), DOI:10.1111/pre.12514

論文情報

タイトル

Structural colour in the brown algal genus Sporochnus (Sporochnales, Phaeophyceae).”

DOI

10.1080/09670262.2024.234002

著者

Kawai, H. & Motomura, T.

掲載誌

European Journal of Phycology 

研究者

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