神戸大学大学院医学研究科(神戸大学長:藤澤 正人/以下、神戸大学)と楽天メディカル株式会社(本社:東京都世田谷区、代表取締役会長:三木谷 浩史/以下、楽天メディカル)は、共同で実施した日本人の唾液腺がん患者における「EGFR陽性スコア」および「累積 EGFR スコア」について検討するEGFR※1発現に関する後ろ向き研究※2の成果が「Auris Nasus Larynx」で論文掲載されたことをお知らせします。
神戸大学大学院 医学研究科 耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野の教授である丹生 健一は次のように述べています。「楽天メディカルと世界で初めて『累積 EGFR スコア』を用いた共同研究を行い、日本人の唾液腺がんにおいて83.3%でEGFR発現が認められました。同疾患は希少がんのため、EGFR発現に関する十分なデータはありませんでしたが、本データは、唾液腺がんに対する頭頸部アルミノックス治療などのEGFRを標的としたがん治療を検討する際の有益なデータとなることが期待されます」
本研究は、EGFR染色強度の4段階評価と各強度の陽性率より算出した「累積EGFRスコア」を用いて唾液腺がんのEGFR発現を評価した世界で初めての研究です。「EGFR陽性スコア」とは、発現強度に関わらずEGFR陽性であったがん細胞の割合です。
2010年1月~2021年4月に、神戸大学医学部附属病院で外科的切除を受けた唾液腺がん102例を対象に、「EGFR陽性スコア」と「累積EGFRスコア」の両方を用いて唾液腺がんの各病理組織型におけるEGFR発現率を評価しました。なお、「累積EGFRスコア」は、抗EGFR抗体であるセツキシマブの非小細胞肺がんに対する臨床的有用性を予測するバイオマーカーとして機能することが報告されています。
唾液腺がんは、頭頸部がん全体の3~5%を占めています1。WHO腫瘍分類オンライン第5版では、24の異なる病理組織型に分類されています2。現在、唾液腺がんの標準治療は外科的切除の単独療法または外科的切除と放射線療法の併用療法です3。化学療法や放射線療法の感受性は、組織型によって異なり、口腔がん、喉頭がん、咽頭がんなどの扁平上皮がんと比較すると、非扁平上皮がんである唾液腺がんにおけるこれらの治療の有効性は限定的であるとされています4。再発や遠隔転移の唾液腺がんに対するEGFRを標的とする治療法として、頭頸部アルミノックス治療が治療選択肢として上げられますが、唾液腺がんに対する有効性のデータは限られています。
唾液腺がんにおけるEGFR発現に関する研究5, 6, 7はいくつか報告されていますが、EGFR発現の評価基準が論文によって異なり、EGFR発現率の報告値はさまざまであるのが現状です。
神戸大学と楽天メディカルは、「累積EGFRスコア」が、頭頸部アルミノックス治療を含む、EGFRを標的とするがん治療の有効性を予測するバイオマーカーとなり得ると考え、種々の組織型を含む唾液腺がんにおける「累積EGFRスコア」と「EGFR陽性スコア」を評価し、それぞれのスコアを比較する本研究を実施しました。
2021年2月に、神戸大学、楽天メディカルおよび神戸市は、アルミノックス™ プラットフォームを基にした、新たながん治療の研究開発に関する連携・協働協定を締結しました。本協定に基づき、同大学と同社は連携を進め、本共同研究を行いました。本共同研究契約に関する詳細は、こちらをご参考ください。また、同大学は、Rakuten Medical, Inc.(米国法人)が立ち上げたアルミノックス™プラットフォームの開発連携ネットワーク「Alluminox™ Alliance Institutes(アルミノックス™・アライアンス・インスティチュート)」に参加しています。
※1 EGFR(上皮成長因子受容体)とは、頭頸部のがん細胞の表面に現れるタンパク質です。このたんぱく質は、細胞の増殖を促す物質を認識して、増殖のシグナルを送っています。
※2 後ろ向き研究とは、過去の症例を集めて仮説を検証する研究を呼びます。
発表のポイント
- EGFR染色強度の4段階評価と各強度の陽性率より算出した「累積EGFRスコア」を用いて、唾液腺がんのEGFR発現レベルを評価した世界で初めての研究です。
- 種々の組織型を含む日本人の唾液腺がん102例のうち85例(83.3%)でEGFR発現が認められました。
- 「EGFR 陽性スコア」および「累積 EGFR スコア」について検討した結果、異なる組織型間のみならず、同じ組織型内においてもEGFR発現はさまざまであることが示されました。
両スコアは、頭頸部アルミノックス治療などのEGFRを標的とする唾液腺がん治療において、バイオマーカーとして活用できる可能性があり、症例データの蓄積により、両スコアと治療有効性の関連について今後の研究成果が期待されます。
神戸大学大学院医学研究科について
神戸大学大学院医学研究科は、明治2年に設立された神戸病院を創設母体とした医学部附属病院を基盤として今日まで先端的医学研究、卓越した臨床医・研究医の育成と地域医療の充実に尽力して参りました。平成29年4月には、神戸医療産業都市にリサーチホスピタルとしての医学部附属病院国際がん医療・研究センター(ICCRC)を新たに設置し、周辺の医療機関・研究機関との連携強化により次世代医薬品、新規治療・医療機器の研究開発・教育に取り組んでいます。
楽天メディカル株式会社について
楽天メディカルは、アルミノックス™プラットフォームと呼ぶ技術基盤を基に、薬剤と光を組み合わせた、がんをはじめとした様々な疾患に対する新しい治療法の開発および販売を行うグローバルバイオテクノロジー企業です。同プラットフォームを基に開発した医薬品・医療機器の非臨床試験(非公開データ)では、特定の細胞の選択的な壊死が確認されています。楽天メディカルは、世界中の一人でも多くの患者さんに、一日でも早く、私たちの革新的な治療法をお届けすることにより「ガン克服。」というミッションの実現を目指しています。本社を構える米国に加え、日本、台湾、スイス、インドの世界5カ国/地域に拠点を有しています。楽天メディカル株式会社は、Rakuten Medical, Inc.(米国法人)の日本法人です。詳しくは、https://rakuten-med.com/jp/をご覧ください。
頭頸部アルミノックス治療について
頭頸部アルミノックス治療は、アキャルックス®点滴静注とレーザ光照射による治療法です。がん細胞の表面に多くあらわれるタンパク質に結合するアキャルックス®を投与し、BioBlade®レーザシステムを用いてレーザ光を当てることでアキャルックス®がこれに反応し、がん細胞を死滅させます。これらの製品は、2020年9月に世界に先駆けて日本で「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」を効能・効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得し、2021年1月より販売開始しました。全国約165か所の耳鼻咽喉科・頭頸部外科と歯科口腔外科で本治療が提供されており、累計550回以上の治療が実施されました(2024年6月末時点)。楽天メディカルの患者さん・ご家族向けウェブサイトの「治療が受けられる施設」に、掲載許諾をいただいた医療機関を掲載しています。
アキャルックス®点滴静注250㎎について
アキャルックス®点滴静注250㎎は、キメラ型抗ヒト上皮成長因子受容体 (EGFR) モノクローナル抗体 (IgG1) であるセツキシマブと光感受物質である色素IRDye® 700DX を結合させた抗体-光感受性物質複合体からなる点滴静注用の注射剤です。アルミノックス™プラットフォームを基に開発された最初の医薬品で、一般名はセツキシマブ サロタロカンナトリウム (遺伝子組換え) です。
BioBlade®レーザシステムについて
BioBlade®レーザシステムは、アキャルックス®点滴静注250㎎と組み合わせて使用するレーザ装置です。レーザシステムは、BioBlade®レーザ、必要な付属品、ディフューザー及びニードルカテーテルにより構成されます。ディフューザーは、照射を行うための補助器具で、光ファイバーの前方から照射を行う表面照射用のフロンタルディフューザーと、光ファイバーの側面から照射を行う組織内照射用のシリンドリカルディフューザーの2種類があります。ニードルカテーテルは、組織内治療において、シリンドリカルディフューザーを導入するために使用します。
参考
1. Del Signore AG, Megwalu UC. The rising incidence of major salivary gland cancer in the United States. Ear Nose Throat J 2017; 96: E13–6.
2. WHO Classification of Tumours Editorial Board. WHO classification of tumors online. 5th ed. International Agency for Research on Cancer; 2022 [beta version, ahead of print], Lyon (France), https://tumourclassification.iarc.who.int/chapters/52.
3. Lewis AG, Tong T, Maghami E. Diagnosis and management of malignant salivary gland tumors of the parotid gland. Otolaryngol Clin North Am 2016; 49: 343–80.
4. National Comprehensive Cancer Network. NCCN clinical practice guidelines in oncology (NCCN Guidelines): Head and Neck Cancers Version 2. 2022.
https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/head-and-neck.pdf.
5. Szewczyk M, Marszałek A, Sygut J, Golusi´nski P, Golusi´nski W. Prognostic markers in salivary gland cancer and their impact on survival. Head Neck 2019; 41: 3338–47.
6. Monteiro LS, Bento MJ, Palmeira C, Lopes C. Epidermal growth factor receptor immunoexpression evaluation in malignant salivary gland tumours. J Oral Pathol Med 2009; 38: 508–13.
7. Ettl T, Schwarz S, Kleinsasser N, Hartmann A, Reichert TE, Driemel O. Overexpression of EGFR and absence of C-KIT expression correlate with poor prognosis in salivary gland carcinomas: EGFR and C-KIT in salivary gland cancer. Histopathology 2008; 53: 567–77.
論文情報
タイトル
DOI
10.1016/j.anl.2024.05.007
著者
Hajime Fujiwaraa, Yoshinori Kodamab, Hikari Shimodaa, Masanori Teshimaa, Hirotaka Shinomiyaa *, Ken-ichi Nibua
a. Department of Otolaryngology–Head and Neck Surgery, Kobe University Graduate School of Medicine, 7-5-1, Kusunoki-Cho, Chuo-Ku, Kobe, 650-0017, Japan
b. Department of Diagnostic Pathology and Cytology, Osaka International Cancer Center Institute, 3-1-69, Otemae, Chuo-Ku, 541-8567, Japan
* Corresponding author
掲載誌
Auris Nasus Larynx
掲載日
August 2024(雑誌)/8 June 2024(オンライン)