神戸大学大学院農学研究科の研究により、トノサマガエルはスズメバチの毒針による反撃を受けても捕食できることが明らかになりました。今後、カエルがスズメバチの毒針に耐える仕組みを解明することで、毒性や痛みを抑制する生理的メカニズムの理解が進む可能性があります。
この研究成果は、2025年12月4日に米国生態学会が発行する学術誌「Ecosphere」に掲載されました。

ポイント
- トノサマガエルの成体は、オオスズメバチを含む3種のスズメバチを捕食できる。
- トノサマガエルはスズメバチを襲う際、顔や口内を繰り返し毒針に刺される。
- トノサマガエルは毒針に刺された後でも死傷しない。
研究の背景
スズメバチのメス(女王、働き蜂)は、産卵管を変形させた毒針(図1)を使って、自身やコロニー(巣)を護ります。注入された毒液には、アミン類(セロトニン、アセチルコリン等)や低分子ペプチド(キニン類等)、酵素(ホスホリパーゼ等)が含まれるため、刺されると痛みや組織破壊、溶血、心機能障害などをもたらします。オオスズメバチやキイロスズメバチの働き蜂に1回刺されるだけで、小型の哺乳類であれば死に至ります。このようなスズメバチの強い毒性にもかかわらず、鳥類、クモ類、カエル類など、複数の動物が捕食者として知られています。これまで、トノサマガエル※1の野生個体の胃内容物からスズメバチの死体が見つかっており、水辺に吸水や吸蜜にやってくる働き蜂を襲っているものと考えられていました。しかし、トノサマガエルは毒針を回避しているか、もしくは毒針に刺されても毒や痛みに耐えることができるのか、未解明でした。

研究の内容
本研究では、トノサマガエルの成体に3種のスズメバチ(キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、オオスズメバチ)※2の働き蜂を与え、毒針を回避しているのか、またどの程度捕食できるのかを実験室で観察しました。
トノサマガエル45個体とスズメバチ各種をそれぞれ15個体ずつ用い、1個体のカエルに対して1個体のスズメバチを与える実験を行いました。ほとんどのカエルはスズメバチを襲い、キイロスズメバチを襲った14個体中13個体(93%)が、コガタスズメバチでは15個体中13個体(87%)が、オオスズメバチでは14個体中11個体(79%)が捕食に成功しました(図2)。捕食の有無にかかわらず、多くのカエルで、スズメバチに顔や喉、口内を複数回刺されていることが観察されました(図3)。
実験後、衰弱したり死亡したりしたトノサマガエルの個体は確認されませんでした。トノサマガエルと同程度か、あるいはそれより大きなマウスがスズメバチに1回刺されるだけで死亡することを考慮すれば、トノサマガエルには毒針への高い耐性があることが示唆されました。


今後の展開
トノサマガエルがスズメバチに刺されても、どのような仕組みで毒性や痛みに耐えられるのかは未解明です。トノサマガエル以外のカエル(ウシガエル、ツチガエル)の胃内容物からもスズメバチが見つかっているため、大型カエル類に毒針耐性を持つ可能性があります。これは、カエルがスズメバチの毒に対して耐性を獲得したのか、あるいは、コロニーをめったに襲わない両生類に対してスズメバチが毒性を進化させなかったのかもしれません。これらを明らかにすることで、スズメバチの毒針がもたらす毒性や痛みを抑制するメカニズムの解明につながる可能性があります。
用語解説
※1 トノサマガエル
水田やため池、その周辺に生息する。本実験に使用した成体の胴体長は44〜93 mmで、体重は6〜76 g。
※2 キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、オオスズメバチ
3種はいずれも日本を含むアジアに分布。特にオオスズメバチは世界最大のスズメバチ。日本では、越冬した女王が単独で営巣し、餌を集め、働き蜂を育てる。働き蜂は獲物を狩り、幼虫を育て、コロニーを大きくする。働き蜂はコロニーを襲う外敵を毒針で撃退する。本実験に使用した働き蜂の体長はキイロスズメバチで20〜25 mm(体重0.2〜0.4 g)、コガタスズメバチで21〜31 mm(0.4〜0.7 g)、オオスズメバチで32〜39 mm(0.8〜1.5 g)。
謝辞
本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)「スズメバチ類をめぐる音響擬態リングの解明」(JP23K18027)および基盤B「捕食者体内の攻防:カエル類と昆虫類における進化的軍拡競争の解明」(24K02099) の支援を受けて行われました。
論文情報
タイトル
“Pond frog as a predator of hornet workers: High tolerance to venomous stings”
DOI
10.1002/ecs2.70457
著者
Shinji Sugiura(杉浦真治)
掲載誌
Ecosphere

