神戸大学大学院医学研究科内科系講座皮膚科学分野の久保亮治教授、慶應義塾大学皮膚科学教室の小野紀子特任助教、伊東可寛専任講師らの研究グループは、日本に約1万人、東アジアに数十万人の患者がいる先天性疾患「長島型掌蹠角化症(ながしまがたしょうせきかくかしょう)」において、患者を悩ませる症状の1つである足の独特な臭気の原因を明らかにし、臭いを改善する方法を見出しました。

長島型掌蹠角化症では、手足の皮膚が赤いこと、角質が分厚くむけやすいこと、手足の汗が多く、特に足に独特の臭気があることが問題となります。しかし、これまで足の臭気を抑えるよい治療法はありませんでした。研究グループは、手足のさまざまな部位から採取した皮膚表面の細菌DNAを詳細に解析し、症状のある皮膚では特定の細菌(ブドウ球菌とコリネバクテリウム)が異常に増殖していることを明らかにしました。さらに、ニキビの治療に用いられる殺菌薬「過酸化ベンゾイル」を外用することで、これらの細菌、特にコリネバクテリウムの菌数が大幅に減少し、足の臭気が著明に改善し、患者さんによってはほぼ臭気が消えることを示しました。以上から、異常増殖したコリネバクテリウムが産生する代謝物が臭気の主な原因であることが示唆されました。掌蹠角化症には10種類以上の病型があり、過酸化ベンゾイルの外用療法は、他の型の掌蹠角化症の足の臭気の改善にも応用可能と期待されます。 

本研究成果は2025年12月1日に、米国研究皮膚科学会誌であるJournal of Investigative Dermatologyに掲載されました。

図1:研究の概要図 長島型掌蹠角化症の足底ではブドウ球菌とコリネバクテリウムが異常増殖していた。過酸化ベンゾイルの外用により、コリネバクテリウムが減少するとともに、臭気が著明に改善した。異常増殖したコリネバクテリウムが産生する代謝物が臭気の原因と考えられた。
© Journal of Investigative Dermatology (2025) (DOI: 10.1016/j.jid.2025.11.011) (CC BY)

研究の背景

長島型掌蹠角化症(注1)は、日本に約1万人、東アジアに数十万人の患者がいると見積もられる先天性の掌蹠角化症です。主な症状として、(1)手足の皮膚が赤い、(2)手足の皮膚の角質が分厚く、むけやすく、また水に浸すとふやけて白く変化する、(3)しばしば手足の多汗を伴い、特に足では独特の臭いを伴う、ことがあげられます。これらの症状は、手の平、足の裏だけでなく、手首の内側や指の背側、足背、アキレス腱部にまで広がるのが特徴で、患者さんは手足の赤みや角質の剥離という見た目の問題と、手足の多汗、そして足の臭いに悩まされます。そこで、足の臭いの原因を突き止め、治療することを目指した研究を始めました。

我々の皮膚の表面は角質で覆われています。角質にはさまざまな細菌が住んでおり、皮膚の常在細菌叢と呼ばれています。長島型掌蹠角化症では、手足を水に浸すと、角質がすぐに水を吸って白色に変化します。このような水をはじく力が弱く、ふやけやすい角質では、細菌が繁殖しやすくなっているのではないか、繁殖した細菌が臭いを作っているのではないか、と考えました。

図2:長島型掌蹠角化症患者の足裏(左)および手のひら(右) © Journal of Investigative Dermatology (2025) (DOI: 10.1016/j.jid.2025.11.011) (CC BY)

研究の内容

長島型掌蹠角化症に罹患している方と罹患していない方それぞれを対象に、手の平および足の裏を含む計7ヶ所の皮膚から細菌を回収してDNAを抽出し、16S RNAの配列を調べました。細菌はその種類ごとに独自の16S RNAを持っているため、16S RNAの配列を解読し定量することで、細菌の種類と量を推定することができます。長島型掌蹠角化症の足の皮膚では、健康な皮膚に比べて細菌の量が顕著に増加しており、特に表皮ブドウ球菌とコリネバクテリウム(Corynebacterium tuberculostearicum)が増えていて、足が強く臭いました。そこで、足の指の間や足底に過酸化ベンゾイルを毎日外用したところ、足の臭いが著明に減少しました。外用治療後に菌を調べたところ、コリネバクテリウムが大幅に減少していました。また標準株の菌を培養して調べたところ、表皮ブドウ球菌よりもコリネバクテリウムの方が過酸化ベンゾイルに感受性が高いことが分かりました。

以上のことから、長島型掌蹠角化症の足の臭いは、皮膚の表面で過剰に増殖したコリネバクテリウムが原因であり、過酸化ベンゾイルの外用により治療可能であることが示されました。たとえ生まれつきの病気に伴う症状であっても、その症状が出るメカニズムを明らかにして原因を除去すれば、症状を和らげることができることを示しました。

今後の展開

コリネバクテリウムや表皮ブドウ球菌が産生する臭いの原因となる代謝物として、イソ吉草酸が知られています。しかし、長島型掌蹠角化症の臭いがイソ吉草酸によるものなのか、他のにおい物質が関わっているのかは、今後の研究課題です。掌蹠角化症には10を越える病型があり、病型ごとに異なる原因遺伝子があります。さまざまな病型の掌蹠角化症に、足の臭いの問題があることが知られていますが、良い対応策がこれまでありませんでした。本研究の成果は、他の掌蹠角化症の臭いにも応用可能であることが期待されます。

用語解説

注1 掌蹠角化症

「掌蹠角化症」とは、手のひらと足の裏が硬くなる皮膚疾患群で、先天性のものと後天性のものがある。先天性の掌蹠角化症には10種類以上の病型があり、中でも潮紅を伴う手足の過角化、多汗、水浸時の白色変化などを特徴とし、SERPINB7という遺伝子の変化が原因で発症するものを長島型掌蹠角化症と呼ぶ。

研究助成等

本研究の一部は、公益財団法人マルホ・高木皮膚科学振興財団より受けた高木賞の研究助成、およびJSPS科研費JP24K11504の資金援助を受けて行われました。本臨床研究は、慶應義塾大学医学部倫理委員会に承認された倫理申請(承認番号20120226, 20130384, 20170394)、神戸大学医学部医学倫理委員会に承認された倫理申請(承認番号B230011)、および慶應義塾大学病院の医療安全委員会による過酸化ベンゾイルの承認外使用の承認(承認番号2022-077)に基づいて行われました。

論文情報

・タイトル

“Microbial dysbiosis and foot odor in Nagashima-type palmoplantar keratosis: Improvement with topical benzoyl peroxide”

・DOI

10.1016/j.jid.2025.11.011

・著者

Noriko Ono, Yoshihiro Ito, Satomi Aoki, Aiko Shiohama, Takashi Sasaki, Rina Kurokawa, Wataru Suda, Masayuki Amagai, Akiharu Kubo

・掲載誌

Journal of Investigative Dermatology

報道問い合わせ先

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研究者

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