梅屋潔教授

神戸大学大学院国際文化学研究科内に2025年春、「アフリカン・コンヴィヴィアリティ・センター」が設置された。より意識的にアフリカの研究者、学生の交流を振興するのが目的で、「アフリカ」を冠した組織は、全国の大学でも珍しいという。活動を始めて丸1年が経過する中、センター設置を推進してきた国際文化学研究科長の梅屋潔教授に、同センターがどんな役割を果たし、大学にとって何が期待できるのか、アフリカの現状と国際社会における立ち位置について聞いた。

「宴会」という名の拠点センター

「アフリカン・コンヴィヴィアリティ・センター」とはどんな組織ですか。どんな活動、役割を担っていますか。

梅屋教授:

神戸大学にも、アフリカ大陸からの留学生が何人かいますが、まだまだ非常に少ない状況です。私自身はサブサハラ・アフリカの研究者ですので、研究者であれ、大学院生であれ、学部生であれ、神戸に来た時に手助けできる拠点を作りたいと思っていました。

アフリカ大陸全体でも日本語を学ぶ人はまだ1万人ぐらいしかいません。留学生は、英語での授業を提供できれば学ぶ上では困らないかもしれませんが、日本で生活した時に不便さが残ってしまいます。そのため学位を取得したら、帰国してしまう傾向があります。日本語学習を含め生活についても、より深くケアすることが必要になっています。

国内を見渡しても、アフリカからの留学生は2500人程度で、留学生全体の1%程度です。日本や日本製品への信頼は高く、日本に留学したい学生は多いと思いますが、日本とアフリカの経済格差は円が弱くなった今でも大きく、留学するときのハードルが高くなっています。

本学の場合、アフリカを研究する教員も非常に少なく、私の知る限りでは、約1500人のうち2人か3人です。だから、意識的に手を打たないといけない。研究者1人1人が取り組んでいるだけでは限界があり、組織としてバックアップしていこうというコンセプトで設置されました。

「コンヴィヴィアリティ」という言葉は、「宴会」という意味です。カメルーン出身で私が共同研究を進めてきたケープタウン大学(南アフリカ)のフランシス・B・ニャムンジョ教授(神戸大学客員教授)が、意識的に使っている概念を、センター名に冠させてもらいました。教授には、同センターの設置の趣旨に賛同し、顧問にも就任してもらっています。

宴会は皆で良いものを持ち寄って、それをシェアしようという概念です。そこは、近代社会が陥りがちなゼロサムゲーム、勝ったものがすべて獲得し、勝ち組と負け組がはっきり分かれる過度な競争の世界ではありません。センターの設置は、アフリカの人たちに本学に留学してもらい、皆で知的なリソースをシェアしながら、未来につなげていこうというコンセプトのもとで進めてきました。やろうとしていることは、留学生のサポートセンターと大きく変わらないかもしれませんが、日本社会におけるアフリカの情報が少なく、かなり強調しなければ情報が増えていかないのと同様に、「アフリカ」をかなり意識して限定的にアピールする組織になっています。

センターに継続性とハブ的な役割を

センター開設から丸1年が経過します。この間、具体的な成果は上がっていますか。

梅屋教授:

初年度は、研究者の行き来の中で学術連携協定を取り交わし、マケレレ大学(ウガンダ)とは2026年度から交換留学が始まります。ケープタウン大学とも同じような流れができています。日本・南アフリカ大学フォーラム(SAJU)が今年、日本で開催されますが、その際にも「神戸大学アフリカン・コンヴィヴィアリティ・センター」も、一定の役割を果たすと期待されています。

国内の大学でいえば、秋田大学が地下資源の研究を進め、ボツワナと関係が深く、拠点を持っています。長崎大学には熱帯病との関係で、昔からケニアに研究拠点があります。これまでは、個々の研究者同士の関係をもとに大学が結び付くケースが多かったのですが、その域を脱して、組織として連携できれば理想的です。今回の本学のセンター設置は、その大きな一歩になっています。

 

アフリカン・コンヴィヴィアリティ事業の一環として、宮城県気仙沼市でフィールドワークするウガンダ人研究者たち(2026年2月、梅屋教授提供)

今後、センターにどんな展開を期待しますか。

梅屋教授:

まず神戸大学にアフリカを研究している教員が、もう少し増えてくれたらいいと思っています。次にセンターが組織として安定するためには、どうすればいいかを考えていきたい。今は「国際文化学研究推進インスティテュート」という組織の中の3つのセンターのうちの1つですが、ある程度成果が出てきたら、独立した組織に格上げすることも視野に入れたいと考えています。農学研究科などにも、アフリカの留学生が既に在学しています。アフリカン・コンヴィヴィアリティ・センターが必要な理由は、国内、学内の情報が偏って少なかったり、サポートするシステムが整っていなかったり、仲間がいなかったりするなど、大学全体の問題です。機能としては、大学全体のハブ的な役割を果たせるといいと思います。

不完全な人間に求められること

なぜ、今、アフリカなのか。センターの顧問で、研究・活動のキーパーソンでもあるニャムンジョ教授は、どのような考えを持っているのでしょうか。

梅屋教授:

ニャムンジョ教授自身が、献身的な先生で、いつも驚かされています。2015年から10年間、共同研究を推進してきました。その際も損得勘定抜きでコンヴィヴィアルな環境を作ってくれました。思想を体現している点は、見習うことが多かったと思います。

教授は、あらゆる存在の「不完全さ」に世界の本質を見ようとしています。この世界は、「不完全」な人間が、不完全なモノや超自然的な力と向き合い、不完全な世界を創造しているのだという考えです。人間は、分断や孤立に抵抗しながら、不協和音を認め合い、折衝して折り合い、最終的には利益を互いに分かち合うコンヴィヴィアリティの実現を目指すものだと説いています。

このようなアフリカの在来知、その拠って立つ哲学を大切にしながら、交流を振興したい、アフリカの優れた研究者からもっと積極的に学んでいこうという機運が高まり、アフリカン・コンヴィヴィアリティ・センターの設置に結びつきました。

 

センターの構想に際し大きな影響を受けた、フランシス・B・ニャムンジョ教授(右)。衣装は、カメルーン西部のマンコン王国のユニフォーム(2022年、梅屋教授提供)

成果の1つとして、日本学術振興会の「令和8年度研究拠点形成事業」にも採択されました。令和8年度から3年間、「アフリカン・コンヴィヴィアリティの未来:AIとの共存とニャムンジョ哲学」をテーマに研究を推進します。まずニャムンジョ教授の思想内容を分析し、人類の活動が地球に地質学的な痕跡を残すようになった「人新世」の時代に、AIや環境問題にどう対処していけばいいのか、ありうる「解」を考えてみたいと思います。彼の思想は、東洋思想との類縁性が指摘されますが、類縁性と差分を具体的に検証します。現代の文学、映画、アートの専門家を交えて、ニャムンジョ哲学との関係を探っていこうともしています。

リープフロッグ、進化著しい都市部

アフリカ研究が長くなりましたが、アフリカから学んだことは何ですか。

梅屋教授:

日本はこれまで西洋ばかりを見ていました。新聞などでも、アフリカのことが出てくるのは、開発援助の対象としてであったり、民族紛争であったり、病気であったり、ネガティブなニュースとして扱われることが多いと思います。そこには、「文学」「哲学」「言語」など私たちが学ぶべきものがあることを、残念ですが、日本人はほぼ考えていないでしょう。私たちの根底にもあるはずの東洋思想につながるような人間の本質、道徳観という価値あるものがアフリカにもあることを忘れ、見ようとしていないのではないかと思います。そういう態度は、控えめに言ってももったいないし、強い表現を使うなら、間違った考え方です。アフリカというのは、ある意味では、人間の本質が現れている、あるいはそれが可視化しやすい地域だとも思います。

私は、アメリカの9・11同時多発テロの時に、アフリカのウガンダにいました。アルジャジーラとCNNとBBCが並行して視聴できました。それらのメディアが互いに少しずつ違うことを伝えていましたが、帰国してみると、日本のメディアでは西洋側の一方的な報道がされていた印象です。アフリカはその意味でもバランス良く情報が入っていました。「第3世界」という言葉があり、独立したばかりのアフリカが自由主義と共産主義のどちらに付くのか、両陣営で取りあっていた時代がありましたが、当初どちらにも属さなかったアフリカの方が、マクロ的な力関係、国際的な対立がよく見えたのではないかと感じました。ウクライナ、イラン情勢も、歴史的に北朝鮮や中国の援助を受けているアフリカ諸国からは違って見えていると思います。個々の事例は別にして、世界情勢の見方が違うのは事実です。

日本から遠いアフリカの国々は今、どうなっていますか。アフリカを定点的に研究する中、どう変わりましたか。

梅屋教授:

開発援助によって首都など都市部は変わりましたが、農村部は私が研究を始めた頃からほとんど変わっていません。ただ、それに連動し、都市部の住民は、自分の子どもに民族の言葉を教えず、植民地時代に使われていた英語を教えています。民族の言語や文化を失い始めていると感じています。自然の流れでやむを得ない部分もありますが、残念なことだと思います。いまこの瞬間にも消えてゆく言語文化は多いのです。私も2018年に日本語で出した自著の英語版を2022年に出すことができ、幸いなことに広く現地で読まれるようになりましたが、その評価も今のところ、その点に集中しています。つまり、消えてゆく文化や言語を記録したことに対する評価です。

インフラにおいて、ある技術段階を経ず次の技術段階に進むことを「リープフロッグ」(カエル跳び)といいます。アフリカの場合も、通信分野ではガラケーを経ず、スマートフォンが広がっています。また、金融においても、銀行の口座を経ずにモバイルマネーになっています。もともと、銀行口座を持っている人がごく一部のエリートだけで、相当の年収がないと銀行口座など持てませんでした。そんな中、モバイルマネーが庶民に一気に広がり、日本よりも圧倒的に進んでいます。Wi-Fiが整備され、農村部の電気がないところでも、住民はスマホを使っています。

日本はこれから、アフリカとどう付き合えばいいですか。

梅屋教授:

まずはアフリカに行ってもらいたい。アフリカのことを体験してほしい。日本には、アフリカの情報がほとんどないので、まずは知ってほしいと思います。大学の授業で教えたとしても言葉だけでは説得力があまりないので、地道でも現地入りする学生を増やすしかないと思います。これまで神戸大学では、私の引率で延べ50人の学生がアフリカ大陸、アフリカ文化、アフリカ社会と接しています。私が学生の時よりは、今の学生の方が偏見もなくアフリカと付き合えています。このプログラムで参加者の人生観や将来設計の考え方についてもかなりの影響を与えている実感があります。アフリカン・コンヴィヴィアリティ・センターも、その機会をどんどん増やして役割を果たしたい。研究者がアフリカから来学し学生と接することで、アフリカ留学のハードルをより低くしたいと考えています。

ウガンダ・トロロ県アゴラ村での学生を中心としたインタビューの後、村の人々と学生、通訳とで記念撮影(2023年、梅屋教授提供)

国際社会で存在感増すアフリカ

世界の中のアフリカの存在感をどう考えていますか。

梅屋教授:

世界的に見て、出生数が増加して人口が伸びているのは、アフリカと南アジアだけです。ある試算によると、近い将来、地球上の全人口の25%がアフリカ人になります。人口比でいえば、アフリカがどんどんマジョリティーになります。アフリカの中に、人口の多い国がいくつも台頭してきて、存在感は増すと思います。2010年代にクロマグロの漁獲が国際的に問題になった時、アラブ諸国とアフリカ諸国が日本に味方してくれましたが、国際社会において、アフリカの存在感は今後も増しこそすれ、下がることはないでしょう。

もう一点として、国際社会は植民地時代の負の遺産の精算をし始めなければならない時期に来ています。その象徴が、博物館や大学の脱植民地化です。大英博物館やフランスの博物館などが収蔵しているアフリカ由来の展示品の多くは、アフリカ側の考えでは、奪ってきたものです。正当な代価を支払った、と主張されるものでも、「銃を突きつけて」脅迫めいた交渉の末に値段を付けた可能性があります。アフリカ諸国は今、返却を訴え始めています。博物館が保管する展示品の返還問題をどう処理するのか。アフリカと関わっている国際社会の大きな問題だと考えます。収蔵されたモノをもとの文脈に戻し、新しい世代がどう利用するのか、アフリカだけではなく、皆で考えなければならないのです。

今の国際社会では、トランプ大統領やプーチン大統領らのやり方が典型ですが、まさしく強者の論理です。足を踏まれたことのない人たちが国際社会の舵取りをするのではなく、むしろ、過去にひどい目にあったアフリカの中の思慮深い人が、過去の経験を活かしてリーダーになった方が、自分たちの負の歴史を、今後の人類の未来に生かす方向に役立ててくれる可能性があると考えています。

プーチン大統領がウクライナ侵攻した時に、ケニア代表が国連で話したスピーチが素晴らしかったことを覚えています。アフリカが勝手に国境を引かれ、分割され、植民地化されて何を経験し、何を学んだかというと、暴力による支配は、決して幸せな社会を生まないということ。アフリカは、やられたことをやり返すのは生産的ではないと十分に理解して我慢しているが、大国はなぜそれを繰り返すのか、そういう内容だったと思います。力で支配しようとするリーダーが主導する国際社会には、明るい未来があるとは思えない。この時のケニア代表のように、言葉に重みのある人がリーダーになってほしいですね。ニャムンジョ哲学から学ぶこと、アフリカから学ぶことは、まだまだ多いと思います。

梅屋潔教授 略歴

1993年3月、慶應義塾大文学部卒。95年3月、同大学大学院社会学研究科博士前期課程修了。2002年3月、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。09年10月、神戸大学大学院国際文化学研究科准教授。16年4月、同教授。24年4月、研究科長。

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