神戸大学・先端バイオ工学研究センターの那須野亮特命准教授、大学院科学技術イノベーション研究科の蓮沼誠久教授らの研究グループは、アミノ酸から有用物質の原料となる鍵化合物・α-ケト酸を生産する際に、従来広く用いられてきたトランスアミナーゼと比較し、アミノ酸デアミナーゼ(AAD)がより優れた性能を示すことを、初めて実験的に明らかにしました。本成果は、バイオものづくりにおける酵素選択の新たな指針を示すものであり、持続可能な化学品生産技術の高度化への貢献が期待されます。特に、従来広く用いられてきた酵素の選択を見直す可能性を示した点で重要な成果です。
本研究成果は、2026年4月1日に国際学術誌『Metabolic Engineering』に掲載されました。

ポイント
- アミノ酸からα-ケト酸を生産する酵素として、AADが従来酵素より優れることを初めて実証
- 高い基質親和性が生産効率向上の要因であることを解明
- バイオものづくりにおける酵素選択の新たな設計指針を提示
研究の背景
α-ケト酸注1)は、バイオものづくりにおいて様々な有用物質の原料となる重要な化合物です。そのため、より効率的なα-ケト酸生産技術の確立は、持続可能な化学産業の実現に向けて重要な課題とされています。従来、アミノ酸からα-ケト酸への変換にはトランスアミナーゼ注2)が広く利用されてきましたが、反応の際にα-ケトグルタル酸(αKG)を消費することや反応が可逆的であることから、生産効率に制限がありました。一方で、アミノ酸デアミナーゼ(AAD)注3)はアミノ酸以外を消費せず、一方向に反応を進める特性を持つことから、有効な代替酵素となる可能性が指摘されていました。しかし、従来酵素であるトランスアミナーゼとAADの性能差を直接比較した実験的検証はこれまで行われていませんでした。そのため、α-ケト酸生産における酵素選定は、必ずしも十分な科学的根拠に基づいて行われてきたとは言えませんでした。
研究の内容
本研究では、アミノ酸からα-ケト酸を生産する際の酵素として、AADと従来のトランスアミナーゼの性能を比較しました。
AADまたはトランスアミナーゼを導入した大腸菌を用いて、トリプトファンから植物ホルモンであるインドール酢酸を生産させたところ、AADを用いた場合に、トランスアミナーゼよりも高い生産量が得られることを示しました(図2)。特に、αKGを添加しない条件においても高い生産が可能である点が特徴です。

さらに、酵素の反応特性を解析したところ、AADは基質であるトリプトファンに対して高い親和性を持つことが明らかとなり、これが高い生産効率に寄与していることが明らかになりました。
また、他のアミノ酸(ロイシン、バリン、フェニルアラニン)に対しても同様に、AADがより高いα-ケト酸生産能を示すことを見出しました。
これらの結果から、AADはα-ケト酸生産において従来酵素であるトランスアミナーゼより優れた特性を持つことが、初めて実験的に証明されました。
今後の展開
本研究により、α-ケト酸生産における酵素選択に新たな指針が示されました。燃料・化学品・医薬品原料などの生産を目指した代謝設計において、より高効率な設計戦略の構築に貢献すると考えられます。今後は、AADの改良や基質特異性の制御を進めることで、より効率的なバイオ生産プロセスの構築が期待されます。
用語解説
注1)α-ケト酸
さまざまな有用化学物質の原料となる代謝中間体
注2)トランスアミナーゼ
アミノ酸のアミノ基をαKGに移し替えてα-ケト酸を合成する酵素
注3)アミノ酸デアミナーゼ(AAD)
アミノ酸からアミノ基を直接除去してα-ケト酸を合成する酵素
謝辞
本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト(P20011)および、日本学術振興会(JSPS)「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」(JPJS00420230009)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル
"Amino acid deaminase outperforms transaminase in α-keto acid production from amino acids"
DOI
10.1016/j.ymben.2026.04.001
著者
Ryo Nasuno, Hisashi Kudo, Keiji Fushimi, Ryota Hidese, Akihiko Kondo, Tomohisa Hasunuma
掲載誌
Metabolic Engineering
報道問い合わせ先
神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

