神戸大学大学院工学研究科の山口渉准教授、岡野健太郎教授、川上大輝大学院生らの研究グループは、一般的な工業原料であるニトリルから医薬品や農薬の原料として必要不可欠な第二級アミンを、簡便かつ効率的に合成する新規固体触媒の開発に成功しました。開発された触媒は安価な非貴金属で構成されており、経済的かつ低環境負荷な次世代型触媒プロセスの実現が期待されます。本研究成果は、7月7日に、米国化学会誌ACS Catalysisに掲載されました。

ポイント
- 従来技術では合金化※1が困難とされてきた、ニッケル(Ni)とタングステン(W)からなる新規ナノ粒子触媒※2を開発。
- 大気圧水素下でニトリルから第二級アミンへの選択的水素化反応を効率よく促進。
- 医薬品・農薬の合成に必要不可欠な第二級アミンを効率的かつ低コストで与える、環境に調和した合成プロセスの構築に期待。
研究の背景
ニトリルの水素化反応は、私たちの生活に欠かせない医薬品や農薬、ポリマー等の原料となるアミン化合物を合成する重要な変換反応です。近年では、経済性の観点から、安価で埋蔵量が豊富な非貴金属を用いた触媒の開発が盛んに試みられてきましたが、アミン化合物の中でも特に高付加価値な第二級アミンのみを与える触媒の報告例は限られていました。その上、これらの非貴金属触媒は、高収率で第二級アミンを与えるために高温・高水素圧の厳しい反応条件を必要としていました。したがって、より温和な条件下でニトリルから第二級アミンへの選択的水素化反応を促進させる、新しい非貴金属触媒の開発が望まれていました。
研究の内容

本研究グループは、独自のナノ粒子合成技術に基づき、ニッケルとタングステンからなる合金ナノ粒子(nano-NiW)を開発しました(図1(a)および(b))。nano-NiWは、従来の手法で合成されたニッケル触媒や工業で一般的に利用されているラネーⓇニッケル触媒※3では不可能だった、常圧水素下でのニトリルから第二級アミンへの選択的水素化反応を進行させました(図1(c))。また、本触媒は様々なニトリル化合物に適用可能であり、目的の第二級アミンを選択的に与えました(図2(a))。さらに、第一級アミン共存下でニトリルの水素化反応を行うと、従来は多段階を必要としてきた非対称な第二級アミンを一段階で合成できました(図2(b))。開発したnano-NiWは固体触媒であるため、遠心分離により反応液から容易に分離でき、回収した触媒を再びニトリルの水素化反応に利用した場合にも活性の低下は確認されませんでした。

今後の展開
本研究では、従来技術では合金化が困難とされてきたニッケルとタングステンからなるnano-NiWの精密合成に成功し、優れた経済性と高機能性を兼ね備えた新規水素化触媒を開発しました。ニトリルから第二級アミンへの選択的水素化反応は、医薬品・農薬の原料を合成する重要な反応プロセスです。本触媒の開発は、第二級アミンを効率的かつ低コストで生産する環境に調和した次世代型製造プロセスの構築に大きく貢献します。
用語解説
※1合金化
ある金属に他の金属を混ぜ合わせることです。一般に、周期表上で近接する元素同士ほど合金化しやすいとされており、大きく離れた元素同士では合金化は難しいと考えられています。本研究では、この常識を覆し、周期表上で離れたニッケルとタングステンを合金化させました。
※2ナノ粒子触媒
ナノメートル(nm、10億分の1メートル))の単位で表される、髪の毛の太さの10万分の1程度の大きさを持つ非貴金属の粒子で構成される触媒です。今回の研究では非貴金属のニッケルとタングステンとで構成される粒子径約18 nmのナノ粒子が、ニトリルの水素化反応において優れた触媒として機能しました。
※3ラネーⓇニッケル触媒
内部に小さな穴がたくさん開いた構造(多孔質)を持つニッケル触媒であり、水素化触媒として工業的に広く応用されています。1925年にマレーラネー博士によって開発されたため、ラネーⓇ触媒と呼ばれています。
謝辞
本研究は、科学研究費補助金(JP24K01255)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「材料の創製および循環に関する基礎学理の構築と基盤技術の開発」(JPMJPR24MB)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム「異分野共創による次世代卓越博士人材育成プロジェクト」(JPMJSP2148)の支援の下に行われました。
論文情報
タイトル
DOI
10.1021/acscatal.6c03613
著者
Taiki Kawakami, Yuxuan Feng, Kentaro Okano, and Sho Yamaguchi
掲載誌
ACS Catalysis
報道問い合わせ先
神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

