東京大学大学院新領域創成科学研究科 佐々木裕次教授、大阪大学産学共創本部イノベーション共創部門 西嶋政樹助教、神戸大学大学院工学研究科 濵田大三特命准教授、及び公益財団法人高輝度光科学研究センターらの研究グループは、X線1分子追跡法(Diffracted X-ray Tracking; DXT)を応用し、過飽和溶液中のタンパク質分子(リゾチーム)の凝集化プロセスにおいて、タンパク質分子内部及びその周辺が激しく運動していることを観測しました。この結果を詳細に解析したところ、この激しい運動は、フェムトニュートンという非常に微弱な力場を形成していることが分かりました。これは、激しいブラウン運動を伴う分子凝集体(ネットワーク)の形成と崩壊が繰り返されていることを示しています。これらの研究成果により、アルツハイマー病などの発症プロセスと強く関わるタンパク質凝集プロセスを1分子観察できるようになったので、将来的に過飽和現象を利用した全く新しい治療戦略を展開する可能性が出てきました。

神戸大学工学研究科応用化学専攻 濵田 大三(ハマダ ダイゾウ)准教授は、本研究において、一分子追跡法で用いた溶液中でのタンパク質の立体構造(=分子内部の構造)が、どのような状態であるか、円二色性スペクトル分光法を元に、立体構造の測定法・条件を含め、検討と解析を行っています。

ポイント

  • タンパク質数十個の分子が凝集する過程で、激しいブラウン運動を伴う分子凝集体(ネットワーク)の形成と崩壊が繰り返されていることを世界で初めて観察した。
  • 凝集時のタンパク質1分子の動態を高精度に観察できる高速計測技術を確立し、無機・有機・タンパク質系において共通する局所励起運動を特定した。
  • アルツハイマー病などの発症と強く関わるとされる分子凝集プロセスの1分子観察が可能となり、分子凝集化を制御・抑制する全く新しい治療戦略の可能性に道をつけた。

論文情報

タイトル
Nanoscale Dynamics of Protein Assembly Networks in Supersaturated Solutions
DOI
10.1038/s41598-017-14022-7
著者
Y. Matsushita1, H. Sekiguchi2, JW. Chang1,5, M. Nishijima3, K. Ikezaki1, D.Hamada4, Y. Goto3, Y.C. Sasaki1,2,5

(Corresponding author: Y. C. Sasaki)
1 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻, 2 公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI/SPring-8), 3 大阪大学, 4 神戸大学, 5 産総研-東大 OPERANDO-OIL
掲載誌
Scientific Reports(オンライン版11月1日掲載)

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