神戸大学大学院人間発達環境学研究科の竹下大輝 大学院生、源利文 准教授、NPO法人 環境把握推進ネットワークの照井滋晴 代表、パシフィックコンサルタンツ株式会社の池田幸資、三塚多佳志、チェンマイ大学のマスリン・オササヌンクル 講師からなる研究グループは、川や海の水に溶けたDNA(環境DNA)から、生物の分布や生態を調べる「環境DNA分析」という技術を用い、釧路湿原の水から北海道に生息する絶滅危惧種キタサンショウウオの環境DNAを検出しました。

 本研究により、絶滅危惧種キタサンショウウオの生息域や繁殖地の推定に環境DNA分析が活用できる事が示されました。今後、この技術を基にした調査や保全活動の展開が期待されます。また、本研究は湿原で環境DNA分析を使用した貴重な研究例となりました。

 今後、釧路湿原や日本各地の湿地に生息する貴重な生物種に技術が応用されていく事が期待されます。

 この研究成果は、8月20日に、国際科学誌「PeerJ」に掲載されました。


図1.キタサンショウウオ(Salamandrella keyserlingii) 提供:照井滋晴

ポイント

  • 釧路湿原の水から絶滅危惧種キタサンショウウオの環境DNAを検出した。
  • キタサンショウウオの生息域や繁殖地の調査に活用できる事が示された。
  • 水をくんだ所から7~10m以内の生物の生息状況をよく反映する可能性が示された。
  • 今後、湿原に生息する他の生物種の保全活動にも活用されていく事が期待される。

研究の背景

 キタサンショウウオ(Salamandrella keyserlingii)は湿地に生息する小型のサンショウウオです。国内の分布が釧路湿原域と北海道のわずかな地域に限定されている上、近年報告されている釧路湿原の乾燥化などの環境の変化もあり、絶滅が危惧されてきました。保全活動や研究は積極的に行われていますが、隠れている個体を探すのが困難だったり、調査自体が生物そのものやその環境に負荷をかけたりする事が懸案事項でした。

 そこで、くんだ水に溶けたDNA(環境DNA)から生物の分布や生態に迫る「環境DNA分析」を適用しました。これは、現場の証拠を分析し推理を行う科学捜査の様な手法です。この手法であれば、個体が隠れていて見つけにくくても、汲んだ水に彼らのDNAが溶けているため、分析する事で個体の存在を確認できます。また、現場の作業が水をくむだけのため、個体やすみかを荒らさずに済みます。

 ただ、これまで環境DNA分析が湿原環境で適用された例はわずかしかありませんでした。また、ある場所で水をくんだとして、結果がどのくらいの範囲の生物の生息を反映するのかも分かっていませんでした。つまり、仮にキタサンショウウオの環境DNAが検出されても、それが近くにいるのか、遠くにいるのか見当がつかない状況でした。

研究の内容

 そこでまず、キタサンショウウオが水中に環境DNAを出しているのかを水槽実験によって確認する事から始めました。水槽の中に卵嚢(らんのう・複数の卵がはいった袋状のもの)、幼生個体、成体をそれぞれ入れて、水を採り分析しました。結果、いずれの場合も環境DNAが検出されました。

図2.水槽の様子 左から卵嚢、幼生個体、成体  提供:照井滋晴

図3.調査の様子 提供:池田幸資

 次に釧路湿原で採水を行いました。この時、卵嚢を探す調査も同時に行いました。これで環境DNAの結果が出た際に、どれくらいの範囲と関連が深そうか、結びつける事が可能になりました。

 結果、釧路湿原の水からキタサンショウウオの環境DNAが検出され、周りの卵嚢の有無から、結果が採水地点から7~10m以内の卵嚢の分布状況をよく示している事が分かりました。

図4.釧路湿原の調査結果

調査地の南部(図の下の方)に多くの卵嚢が発見され、環境DNAの検出も南のほうに集中していた。統計的な解析の結果、環境DNAは採水地点から7~10m以内の卵嚢の分布状況をよく示している事が示された。

今後の展開

 この研究により、絶滅危惧種キタサンショウウオの生息域や繁殖地の推定に環境DNA分析が活用できる事が示されました。彼らの分布が未知の地域で環境DNA分析を行えば、新しい分布域が見つかるかもしれません。また、これまでの調査よりもスピーディーで環境への負荷も少ないため、保全活動の一層の発展が期待できます。特に、水をくむ作業については専門家でなくとも容易に習得できるため、市民と一体になって絶滅危惧種を守る活動が行えます。

 また、本研究は湿原で環境DNA分析を使用した貴重な研究例となりました。キタサンショウウオ以外にも、タンチョウやトンボ類といった湿地に生息する貴重な生物種に技術を応用できると考えられます。加えて、湿原で環境DNA分析を適用した場合、水をくんだ所の周囲7~10m以内の生物の状況をよく反映する可能性が示されました。今後、湿原で得られる結果の解釈を深める貴重な知見が得られたといえます。

論文情報

タイトル
Projection range of eDNA analysis in marshes: a suggestion from the Siberian salamander (Salamandrella keyserlingii) inhabiting the Kushiro marsh, Japan
DOI:10.7717/peerj.9764
著者
竹下大輝(神戸大学大学院人間発達環境学研究科・大学院生)
照井滋晴(NPO法人環境把握推進ネットワーク・代表)
池田幸資(パシフィックコンサルタンツ(株))
三塚多佳志(パシフィックコンサルタンツ(株))
マスリン・オササヌンクル(チェンマイ大学・講師)
源利文(神戸大学大学院人間発達環境学研究科・准教授)
掲載誌
PeerJ, vol 8, e9764.

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