神戸大学大学院理学研究科の保井みなみ講師、田澤拓(研究当時:博士前期課程2年)、橋本涼平(研究当時:学部4年)、荒川政彦教授、JAXA国際宇宙探査センターの小川和律主任研究開発員(研究当時:神戸大学技術専門職員)は、小惑星を模擬した試料を用いて1km/s以上の高速度衝突実験を行い、形成されるクレーター周囲の衝突後の温度分布を計測しました。その結果から、最高到達温度と加熱継続時間の経験則を確立し、その経験則を組み込んだ熱伝導モデル計算の結果、小天体の衝突によって発生した衝突残留熱によって、水質変成(注1)や有機物の合成が、小惑星表面で起こる可能性があることを示しました。

この研究成果によって、小惑星で水質変成や有機物合成が起こる可能性のある環境が時間的・空間的に大幅に広がることがわかりました。今後、地球に水や生命の原材料をもたらした可能性のある天体の候補が格段に増えることが期待されます。

この研究成果は、5月18日に、英国科学誌 Communications Earth and Environment(Nature Publishing Group)に掲載されました。

ポイント

  • 小惑星を模擬した多孔質石膏の中に数本の熱電対(注2)を挿入し、衝突速度1km/s以上の高速度衝突実験を行って、衝突直後のクレーター周囲の温度時間変化をその場測定することに成功した。
  • 最高到達温度とその温度継続時間が、衝突速度、弾丸サイズ・密度に依らず、衝突点からの距離をクレーター半径で規格化した無次元距離で決まることを明らかにした。
  • 上記の結果を使用して、小惑星上で衝突クレーター形成後の温度分布の時間変化を計算した。その結果、2天文単位(注3)以内で、半径20km以上のクレーター周囲では水質変成が起こり、半径1km以上のクレーター周囲では有機物の合成が起こることを明らかにした。
  • この結果から、地球の生命誕生に必要な水や有機物の供給源となる候補天体が、飛躍的に増加することが期待される。

研究の背景

地球生命の誕生に必要不可欠な水や有機物は、彗星や小惑星の地球への衝突によってもたらされたと考えられています。小惑星由来である隕石には、水があった証拠である水質変成を受けた鉱物や有機物が発見されています。しかし、小惑星内部で水質変成や有機物の合成を引き起こす化学反応が起こるには、熱源が必要です。その最も有力な熱源の1つとして、岩石中に含まれる短寿命放射性核種26Al(アルミニウム)の放射性壊変熱(注5)があります。しかし、半減期が72万年と短いため、小惑星母天体(注4)上での水質変成や有機物の合成は、太陽系の歴史の初期でしか起こらなかったと言われています。

そこで近年、注目され始めたのが、小惑星に小天体が衝突することによって発生する衝突残留熱です。しかし、衝突する小天体の条件(大きさ、密度、衝突速度)によってどの程度の熱が発生するのか、発生した熱は小惑星内部のどこまで伝播するのか、その熱生成や伝播過程について実験的に調べ、水質変成や有機物合成の可能性を検討した例はこれまでありませんでした。

研究の内容

本グループは、小惑星への小天体衝突によって発生する衝突残留熱とその小天体の衝突条件との関係を調べるため、室内実験を行いました。具体的には、小惑星を模擬した石膏と呼ばれる多孔質の硫酸カルシウム2水和物を標的とし、神戸大学に設置された横型二段式軽ガス銃(図1)を用いて、衝突速度1km/s〜5km/sの高速度で弾丸を撃ち込みました。その際、石膏標的内部には熱電対を複数本設置し、衝突後の温度の時間変化を計測しました。その一連の実験を、弾丸のサイズ・密度、衝突速度、熱電対の位置を変化させて行い、衝突条件による温度の時間変化の違いを調べました(図2)。

図1 神戸大学に設置された横型二段式軽ガス銃

図2 温度変化の例

横軸が時間で、0が衝突時間。縦軸が温度変化で、衝突前の温度からの差を意味する。衝突条件はアルミニウム弾丸、衝突速度は4.3km/s。色の違いは衝突点から熱電対までの距離を示す。最高到達温度は最も高くなった温度、継続時間は最高到達温度の半分になる温度間の時間である。右の写真は、形成したクレーターである。熱電対は標的内部に設置されている。

 

 

図3 (a) 最高到達温度と無次元距離の関係。(b) 継続時間と無次元距離の関係。

継続時間は熱拡散時間(注6)で規格化している。色の違いは弾丸と衝突速度の違いを示し、PCが直径4.7mmのポリカーボネート球、Alが直径2mmのアルミニウム球である。

図4 衝突残留熱モデルで計算した小惑星母天体のクレーター周囲の等温線分布

点線が等温線を示す。数字がその等温線に達したときの、衝突点からの距離をクレーター半径で規格化した値を示す。

温度の時間変化のグラフから、最高到達温度とその継続時間を調べ、衝突条件との関係を求めました(図3)。その結果、弾丸が標的に衝突した点(衝突点)から熱電対までの距離をクレーターの半径で規格化した距離(無次元距離)を用いることで、最高到達温度と継続時間の衝突条件による変化を整理し、経験則を得ることに成功しました。この経験則を組み込んだ衝突残留熱モデルを構築し、小惑星上に形成されたクレーター周囲の温度分布を計算できるようになりました(図4)。そして、モデルの計算結果と、過去の隕石の分析からわかっている水質変成と有機物合成に必要な温度・継続時間の条件とを照らし合わせました。その結果、太陽から2天文単位以内では半径20km以上のクレーターが形成されれば、水質変成が起こる可能性があることを示しました。また、小惑星が主に分布する4天文単位以内において、半径100mという小さなクレーター周囲でも、100℃まで温度が上昇するため、有機物の合成が起こることがわかりました。2天文単位内においても、半径1km以上のクレーターが形成されれば、そのクレーター周囲で氷が水となる0℃まで温度が上昇する領域では、有機物の合成が起こることがわかりました。

今後の展開

水質変成や有機物合成等の化学反応を引き起こしたと考えられている短寿命放射性核種26Alの放射性壊変熱は、直径数十km程度の比較的大きな小惑星内部の中心周辺でしか起こらず、しかもその半減期が短いために、太陽系形成後数百万年の間でのみしか起こらないと言われていました。一方、小惑星間の衝突は現在でも起こっており、さらに小天体の衝突は小惑星そのものを破壊しない限りは、どんなに小さな小惑星でもその表面を加熱することが可能です。つまり、この研究成果によって、小惑星での水質変成や有機物合成が起こる可能性のある場が、時間的にも、空間的にも飛躍的に拡大しました。そのため、地球生命の誕生をもたらした水や有機物を地球に運んできたであろう候補天体が増えることが期待されます。今後、日本のみならず、世界中で小惑星探査によるサンプルリターンが進むと考えられます。採取したサンプルから水質変成鉱物や有機物が発見されれば、衝突残留熱の効果が実証されるかもしれません。

用語解説

(注1) 水質変成
岩石と水の化学反応によって、その岩石を構成する鉱物の種類が変化すること。
(注2) 熱電対
異なる材料の2本の金属線で構成された温度センサー。
(注3) 天文単位
太陽の中心からの距離。1天文単位は太陽中心から地球までの距離(1億5000万km)を意味する。
(注4) 小惑星母天体
現在の小惑星の元となった天体。小惑星は、母天体が衝突破壊して生成した破片の残り、または破片同士が重力によって寄り集まった集合体であると考えられている。
(注5) 短寿命放射性核種26Alの放射性壊変熱
原子核の陽子と中性子の数で区分される原子核の種類のことを核種といい、そのうち、エネルギー的に不安定な核種が放射線を出して異なる核種になるものを放射性核種という。放射線を出して異なる核種になることを放射性壊変と呼び、その際にエネルギーも放出するため、熱を発生する。26Alは壊変して26Mg(マグネシウム)となるが、壊変して半分の量になるまでの時間(半減期)が72万年と短い。
(注6) 熱拡散時間
ある熱源から熱が拡散して伝播する目安となる時間。この研究では、(クレーター半径)2/(熱拡散係数)として計算している。熱拡散係数は物質の固有値。

謝辞

本研究の実験の一部は、JAXA宇宙科学研究所・超高速度衝突実験施設の協力のもと、行われました。本研究は、公益財団法人住友財団・基礎科学研究助成「衝突クレーター形成に伴う衝突残留熱の計測と小惑星熱進化への応用」(研究代表者:保井みなみ)、JSPS科学研究費JP16K17794(研究代表者:保井みなみ)、 JP16H04041・JP19H00719(研究代表者:荒川政彦)の助成を受けたものです。

論文情報

タイトル
Impacts may provide heat for aqueous alteration and organic solid formation on asteroid parent bodies
DOI:10.1038/s43247-021-00159-x
著者
Minami Yasui1, Taku Tazawa1, Ryohei Hashimoto2, Masahiko Arakawa1, Kazunori Ogawa3,1
1 神戸大学大学院理学研究科
2 神戸大学理学部
3 JAXA国際宇宙探査センター
掲載誌
Communications Earth and Environment(Nature Publishing Group)

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