神戸大学大学院経営学研究科の善如悠介准教授と、桃山学院大学経営学部の濵村純平准教授 (神戸大学社会システムイノベーションセンターフェローを兼任) らの研究グループは、製造企業と小売企業の間の自発的な協力関係の構築に関する新たな研究成果を発表しました。

この研究成果は、6月4日に、学術誌「Marketing Letters」に先行配信デジタル版として掲載されました。

ポイント

  • 小売企業が製造企業の費用削減を手助けすることの戦略的理由とは?
  • そのようなボランティア投資をちらつかせることで製造企業による直接販路の開設を阻止
  • 消費者にとっては購入のための選択肢が減少することを意味する
  • 中小企業でも気軽にオンラインで直販できる時代においてその重要性はますます増加

研究の背景

小売企業が、製造元や部品メーカーの手助けをすることがあります。例えば、UNIQLOで有名な株式会社ファーストリテイリング (以下、ファーストリテイリング) は、彼らが販売する衣服の製造元に対して費用削減に繋がる長期的な支援を行っています。なぜでしょうか? もちろん、製造元の生産費用が下がればより低い卸売価格で衣服を仕入れることができるため、仕入れ費用削減の観点からファーストリテイリングにとってメリットがあるでしょう。

それだけでしょうか?本論文では、そのような単純な話だけではなく、オンライン販売が隆盛を極めるこの時代だからこそ生じる「ボランティア投資の戦略的役割」を明らかにしています。

研究の内容

近年、中小企業であっても気軽にオンラインで消費者に直接販売ができる時代です。つまり、中小の製造企業からすると、小売企業を介して販売するだけでなく、そのプロセスを中抜きできる直接販路を新たに開設することで、より高いマージン (粗利益) を得ることも可能です。実際、ファーストリテイリングのUNIQLO向けにデニムを卸しているカイハラ株式会社 (以下、カイハラ) は、オンライン直販の販売経路も持っています。カイハラデニムが一定の評価と知名度を獲得していることもあり、ファーストリテイリングからするとこれまでサプライチェーンのパートナーであったはずの製造企業が、ある日突然競争相手に変わるわけです。

本研究では、小売企業 (例えばファーストリテイリング) が製造企業 (例えばカイハラやその他の製造元) に対して生産費用削減を手助けするような投資を行うことで、製造企業が直接販路を開設することを防ぐ行為に注目しています。また、そのような戦略的ボランティア投資が与える様々な影響を明らかにすることも本研究の重要な目的です。

メカニズムは非常にシンプルです。もし製造企業が直接販路を開設するならば、小売企業にとってその製造企業はパートナーでもあり競争相手でもあります。したがって、小売企業はボランティア投資の水準を下げてしまう (もしくは止めてしまう) でしょう。結果、製造企業は高い生産費用に直面しながら小売企業と競争することになるので、直接販路開設から得られるメリットは限定的です。むしろ、ボランティア投資による費用削減が効率的である場合ほど、製造企業は直接販路の開設によって小売企業の投資インセンティブを下げるようなことは控えるはずです。このように、小売企業はボランティア投資をちらつかせることで、製造企業の直接販路開設を戦略的に阻止できるのです。

次に、直接販路開設が戦略的に阻止されることで発生する副次的な影響はどのようなものでしょうか? 消費者の立場から見たとき、以下の2つの効果を考慮する必要があります。第1に、直接販路開設を阻止するために小売企業は積極的にボランティア投資を行います。結果、製造企業の生産費用が下がり、消費者の手元に届くときの価格も抑えられます。言うまでもなく、この第1の効果は消費者にとって好ましい効果です。ところが、消費者にとって望ましくない側面も、第2の効果として存在します。消費者としては、ある製品を購入するための選択肢が多い方が、その利便性は高いはずです。デニムを小売店 (例えばUNIQLO) でも購入できるし、カイハラが開設しているオンライン販路からも購入できるならば、それぞれの消費者が自分にあった購入方法を選択できるため、消費者の満足度は高まるでしょう。ところが、直接販路開設が阻止されてしまうと、消費者は小売店でデニムを買う以外の選択肢がなくなります。これが第2の効果です。まとめると、「第1と第2の効果のどちらが強く働くのか?」に依存して、消費者への最終的な影響は異なります。本研究では、ボランティア投資による直接販路開設の阻止が、どのような時に消費者に負の影響を与えうるかを明らかにしました。

今後の展開

製造企業による直接販売経路の開設に関する研究潮流において、製造企業と小売企業が自らの費用削減のための投資をする状況や、これらの企業が様々な形で協力し合う状況が分析されてきましたが、驚くことに本研究のような小売企業によるボランティア投資を考慮した研究は存在しませんでした。

製造企業と小売企業の間には、利害対立から協力・協調に至るまで、実に多種多様な相互依存関係が存在しており、マーケティング / 経済学 / オペレーションズ・リサーチなど幅広い分野で研究が蓄積されてきました。本研究は、その広大な研究分野に対して新たな視座を与えたものであり、今後ますます後続の研究が生まれるものと考えます。

謝辞

本研究は科研費(17H00959 / 18K12909 / 19H01474 / 20H01551 / 21K13409)などの助成を受けたものです。

論文情報

タイトル
Retailer voluntary investment against a threat of manufacturer encroachment
DOI:10.1007/s11002-021-09575-7
著者
Jumpei Hamamura and Yusuke Zennyo
掲載誌
Marketing Letters

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