大阪府立大学(学長:辰巳砂 昌弘)大学院 生命環境科学研究科 岡澤 敦司 准教授、太田 大策 教授、馬場 敦也さん(2018年度 博士前期課程修了)、岡野 ひかるさん(2020年度 博士前期課程修了)、大阪大学 大学院工学研究科 新間 秀一 准教授、および神戸大学大学院 農学研究科 杉本 幸裕 教授らの研究グループは、次世代シーケンサー注1 を用いた網羅的な遺伝子発現解析によって、アフリカの農業に大きな被害をもたらしているヤセウツボなどのハマウツボ科の根寄生雑草注2 の発芽に重要なグルコースを生成させる貯蔵糖質プランテオース注3 を加水分解する代謝酵素OmAGAL2の特定に世界で初めて成功しました。

また、質量分析イメージング注4 によって種子中のプランテオースの貯蔵部位の可視化にも成功しました。

この研究成果は、根寄生雑草の発芽に重要な役割を果たすプランテオースの代謝酵素を阻害する化合物の探索を可能にし、アフリカの農業被害の低減や、飢餓の克服への貢献が期待されます。なお、本研究成果は2021年12月1日に、英国の学術誌「Journal of Experimental Botany」のオンライン速報版で公開されました。

ポイント

  • 貯蔵糖質プランテオースを加水分解し、根寄生雑草の発芽に必要なグルコースを生成させる代謝酵素OmAGAL2の特定に世界で初めて成功
  • 種子中のプランテオースの貯蔵部位の可視化にも成功
  • プランテオースは、発芽時に胚の近くのアポプラストで代謝酵素に加水分解されることで、発芽に必要なグルコースを生成しているという代謝モデルを提唱
  • プランテオースの代謝を阻害することで、全てのハマウツボ科根寄生雑草の発芽を抑制することにつながると期待される

研究内容

ハマウツボ科(Orobanchaceae)の根寄生雑草は、世界の農業に大きな被害を与えています。なかでも、アフリカではイネ科の主要な穀類に寄生するストライガ(Striga hermonthica)による被害の影響が約3億人もの生活に及んでいると言われています(図1)。根寄生雑草による被害を低減するために世界では様々な研究が進められていますが、未だ決定的な解決法は確立されていません。私たちの研究グループでは、JST・JICA SATREPSプロジェクトなどの支援を受け、スーダンの研究機関と共同で根寄生雑草による農業被害の低減に向けた様々な研究をおこなっています。

本研究では、“根寄生雑草の発芽”が防除のポイントとなると考え、防除に適した標的酵素蛋白質注5 を見出すことを目的としました。実験材料としては、国内で自生しており入手が容易な根寄生雑草ヤセウツボ(Orobanche minor)(図2)を用いました。これまでの研究結果から、プランテオースが、ヤセウツボの発芽初期に必要なグルコースを供給する貯蔵糖質であることが明らかになっています。そこで、次世代シーケンサーによるRNA-Seq注6 により、発芽中に発現している遺伝子の網羅的解析を行うことで、ヤセウツボ発芽種子中のプランテオースの代謝を詳細に解析し、その代謝酵素を遺伝子レベルで明らかにすることを目指しました。

まず、プランテオースが種子のどこに蓄積されているかを調べました。その結果、胚では検出されず、胚に栄養を供給する胚乳に蓄積されていることが明らかになりました(図3)。この蓄積部位は、プランテオースが貯蔵糖質であることを裏付けるものでした。次に、プランテオースの加水分解酵素遺伝子の探索を行いました。プランテオースは、これまでにα-ガラクトシル結合によって加水分解されることが明らかになっていたため、トランスクリプトームデータ注7 から発芽時に発現量が増加するα-ガラクトシダーゼ遺伝子OmAGAL2を見出しました。OmAGAL2を大腸菌で発現させたところ、酵素蛋白質OmAGAL2がpH 5.0 でプランテオースの加水分解活性を有することが明らかになりました。

さらに、OmAGAL2を蛍光蛋白質mCherryとの融合蛋白質注8 として、ベンサミアナタバコの葉やシロイヌナズナで発現させたところ、OmAGAL2は細胞から分泌され細胞外(アポプラスト)に存在することが明らかになりました(図4)。これらの結果から、プランテオースはヤセウツボの種子の胚乳に蓄積されており、発芽時に胚の近くのアポプラストでOmAGAL2に加水分解されることで、発芽に必要なグルコースを生成しているという代謝モデルが提唱されました。

社会的意義、今後の予定

本研究によって世界で初めて根寄生雑草の貯蔵糖質プランテオースの代謝を明らかにしました。プランテオースはヤセウツボだけではなく、ストライガなど他のハマウツボ科根寄生雑草の発芽中でも代謝されることも明らかにしています。このことから、この代謝の阻害剤は全てのハマウツボ科根寄生雑草の発芽を抑制することにつながると期待されます。

私たちの研究グループでは、現在、OmAGAL2酵素蛋白質に対する阻害剤のケミカルスクリーニングを行なっており、いくつかの化合物が実際にヤセウツボの発芽を抑制するという予備実験の結果を得ています。今後、さらに研究を進め、根寄生雑草選択的な発芽抑制剤の開発を行うことで、最終的には、アフリカの根寄生雑草による農業被害を低減し、飢餓の克服に貢献することが期待されます。

用語解説

注1 次世代シーケンサー
ゲノムや mRNA の遺伝子配列を一度に数十億塩基解読可能なシーケンサーで、近年、様々な生物のゲノム解析などに用いられています。
注2 根寄生雑草
現在、他の植物に寄生する寄生植物が約4,500種確認されています。このうち、作物の根に寄生し、農業に被害をもたらすものを根寄生雑草といいます。根寄生雑草のほとんどがハマウツボ科(Orobanchaceae)の植物であり、ストライガ属(Striga spp.)がアフリカなどで、ハマウツボ属(Orobanche spp.)およびフェリパンキ属(Phelipanche spp.)が地中海沿岸諸国などで農業に被害をもたらしています。
注3 プランテオース
グルコース、フルクトース、ガラクトースからなる三糖で、ガラクトシル結合の加水分解によって、ガラクトースとスクロースが生じます。スクロースは、加水分解酵素インベルターゼにより、グルコースとフルクトースに分解されます。根寄生雑草の他にゴマ、シソ、ミント、トマトなど一部の植物の種子に含まれることが確認されていましたが、その代謝酵素や生理的役割は不明でした。
注4 質量分析イメージング
スライドグラス上の組織切片などにレーザーを照射し、生じるイオンを質量分析計で検出することで、特定の化合物の存在部位を可視化する分析手法で、近年、薬物動態や生物中の化合物の挙動を明らかにする手法として注目されています。
注5 標的酵素蛋白質
医薬や農薬などが効果を発揮するために作用する酵素蛋白質を標的蛋白質と呼びます。
注6 RNA-Seq
次世代シーケンサーを用いて、生物サンプル中で発現している全ての遺伝子転写物(トランスクリプトーム)の情報を定量的に解析できる手法で、生物情報解析技術(バイオインフォマティクス)を用いることでゲノムが未解読な生物においても網羅的な遺伝子発現解析が行えます。
注7 トランスクリプトームデータ
RNA-Seqによって得られた網羅的なmRNA配列をトランスクリプトームデータと呼びます。
注8 融合蛋白質
細胞内もしくは組織内の蛋白質の発現部位などを調べる目的で、蛍光蛋白質と酵素を遺伝子工学によって融合させたものです。

研究助成資金等

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)・国際協力機構(JICA)地球規模課題対応国際科学協力プログラム(SATREPS)(JPMJSA1607)、科学研究費助成事業(科研費)基盤B(JP20H02924)、科学研究費助成事業(科研費)国際共同研究強化B(JP20KK0130)からの支援を受けて行われました。

論文情報

タイトル
Involvement of α-galactosidase OmAGAL2 in planteose hydrolysis during seed germination of Orobanche minor
DOI:10.1093/jxb/erab527
著者
Atsushi Okazawa, Atsuya Baba, Hikaru Okano, Tomoya Tokunaga, Tsubasa Nakaue, Takumi Ogawa, Shuichi Shimma, Yukihiro Sugimoto, and Daisaku Ohta
掲載誌
Journal of Experimental Botany

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