中央大学研究開発機構の脇谷量子郎機構助教 (現在は東京大学大気海洋研究所)、青森県産業技術センター内水面研究所、鹿児島県水産技術開発センター、神戸大学、水産研究・教育機構、福井県農林水産部水産課、中央大学法学部の海部健三教授からなる研究グループは、効果的なウナギの放流手法を検討するため、天然ウナギと放流される養殖ウナギについて研究を行い、二つの論文として発表しました。研究の結果、日本で一般的に放流されている養殖ウナギは飼育の過程を通じて種内競争の能力が低下しており、そのことが放流後の生き残りや成長に悪影響を与えている可能性が示されました。今回得られた知見の他にも、養殖ウナギの放流は、病原体の拡散などを通じて天然ウナギにも悪影響を与える可能性があるため、養殖ウナギの放流については注意深いアプローチが必要です。

本研究のポイント

  • 日本各地でウナギの放流が行われているが、効果検証は進んでいない。
  • 天然ウナギと養殖ウナギ (放流ウナギ) の関係について、行動観察、混合飼育、標識放流の三つの手法を通じて研究を行い、その結果を二つの論文として公表した。
    • 実験1 行動観察:ほぼ同じサイズの天然ウナギと養殖ウナギを1個体ずつ小型水槽に入れ、噛みつき行動とパイプ (隠れ場所) の占有率を基準に行動を解析したところ、養殖ウナギに対し、天然ウナギが優位な地位を占めていた。
    • 実験2 混合飼育:ほぼ同じサイズの天然ウナギと養殖ウナギを約2年間、同じコンクリート水槽で混合飼育したところ、天然ウナギと混合飼育した養殖ウナギは、養殖ウナギのみで飼育した場合と比較して、生残率と成長速度のどちらもが低かった。
    • 実験3 標識放流:国内の4つの河川で標識放流調査を行ったところ、天然ウナギの生息密度の高い河川では、放流ウナギの成長が遅いことが示された。また、放流したウナギの個体数は、2年間で94.9%減少した。
  • 以上の結果より、本研究は天然ウナギが種内競争を通じて養殖ウナギの適応度を低下させる可能性をはじめて示した。
  • これらの論文は、ニホンウナギの放流効果の検証に関する研究として、査読を経て学術誌に掲載された最初の学術論文である。

研究の背景

図1:日本におけるウナギの放流

野生のシラスウナギを捕獲して養殖場で食用に育てる。そのうち一部のウナギが放流用に販売される。放流を行う主体は、主に河川や湖沼の漁業協同組合。

ニホンウナギを増やすことを目的として、日本各地でウナギの放流が行われています。たとえば日本では、2018年の河川や湖沼におけるウナギの漁獲量が69トンであるところ、同年のウナギ放流量は201万個体 (およそ30トン[1]) に上ります。ニホンウナギの減少が社会的な問題とされる中、ウナギの放流は国内最大規模の資源保全策と言えるでしょう。

日本におけるウナギの放流では通常、養殖場で育てられたウナギを川や湖に放します。ウナギを川に放せばウナギが増えそうなものですが、どの程度のウナギが生き残るのか、ニホンウナギについて放流の効果を検証した学術論文は存在しませんでした[2]。そこで中央大学を中心とした研究チームは、放流されたニホンウナギがその後どのくらい生き残り、成長するのか、多角的なアプローチを用いて調査しました。

ウナギの放流については、天然ウナギが既に生息している水域に養殖されたウナギ (放流ウナギ) を放流することで、ウナギの種内競争が激化する可能性が考えられます。しかしながら、養殖ウナギが放流される場合の、天然ウナギとの競合については、ほとんど知見がありませんでした。そこで研究チームは、【実験1 行動観察】小型水槽での行動観察、【実験2 混合飼育】屋外コンクリート水槽での飼育実験、【実験3 標識放流】河川での標識再捕獲調査により、放流される養殖ウナギに天然ウナギが与える影響について検証を行いました。

  • [1] 1個体の重さを平均15グラムと仮定しています。
  • [2] 行政の調査報告書、査読を経ていない文献は存在します。古い報告には、戦前に刊行されたものもあります。

研究の内容

三つのアプローチの関係

この一連の研究では、行動観察・混合飼育・標識放流の三つのアプローチを用いてニホンウナギの放流について調べています。小型水槽を用いた行動観察は室内実験のため、条件のコントロールやデータ取得が容易ですが、実際にウナギが放流される河川とは環境が全く異なっています。反対に、河川にウナギを放流して追跡する標識放流は野外実験であり、条件コントロールやデータ取得が難しい反面、実際に行われているウナギ放流に近い状況を再現できます。屋外コンクリート水槽を用いた混合飼育は屋外実験であり、上記二つの中間的な特徴を持ちます。三つのアプローチを組み合わせることで、より詳しく、より正確な知見を得ることが可能になりました。


図2:本研究で用いた三つのアプローチの比較

実験1 行動観察

ウナギ1匹のみが入れる太さのパイプ (隠れ場所) を入れた小型水槽に天然ウナギと養殖ウナギ1個体ずつ (全長差5%未満) を入れ、14ペア28個体の行動 (噛みつき行動、パイプ占有) を録画し、ビデオ画像から行動の分析を行ったところ、以下の結果が得られました。これらの結果から、天然ウナギは養殖ウナギに比べより攻撃的で、高い競争力を有することが示されました。ただし、攻撃性の強弱には個体差があり、天然ウナギは必ず養殖ウナギに優占する、ということではありません。また、論文内には記載されていませんが、養殖ウナギ同士、天然ウナギ同士でも同じような攻撃行動が観察されています。

  • 天然ウナギの1時間あたりの噛みつき回数 (5.7回±3.1回/時間) は、養殖ウナギの回数 (0.44回±0.45回/時間) を有意に上回り、9割近くを占めました。
  • パイプ占有について、観察した839回のうち666回 (79.4%) で天然個体が占有していました。

図3:実験に用いた水槽

右:全体像。左:隠れ場所としてのパイプを設置し、ニホンウナギを水槽に入れた状態。

図4:隠れ場所のパイプ占有(左)と噛みつき行動(右)

水槽番号が同じものは、同一水槽における同じウナギの組み合わせの観察結果を示す。

実験2 混合飼育

図5:飼育用のコンクリート水槽(鹿児島県)

2014年10月〜2016年10月の2年間、屋外にある3つのコンクリート池のうち、2つの池は試験区としてそれぞれ天然ウナギ5個体、養殖ウナギ5個体を入れ、もう1つの池はコントロールとして養殖ウナギのみ10個体を入れて、同条件で生き餌 (エビ) を与えながら飼育したところ、以下の結果が得られました。これらの結果より、天然ウナギの存在により、養殖ウナギの生残率や成長が低下したと考えられます。

  • 飼育開始から2年後、天然ウナギと混合飼育した養殖ウナギの生残率 (40%) は、養殖ウナギのみで飼育した場合の生残率 (90%) よりも有意に低い値を示しました。
  • 成長について、1日あたりの体重増加量 (g/日) は養殖ウナギのみで飼育した場合よりも、混合飼育した養殖ウナギで有意に低い値を示しました。
  • 養殖ウナギのみで飼育したウナギの合計体重 (バイオマス) は混合飼育した天然ウナギと同様に増大しましたが、混合飼育した養殖ウナギでは増加しませんでした。

図6:天然ウナギと養殖ウナギの生残率

シンボル(●、■、▲)はそれぞれ異なる池を示す。池■と池▲の天然ウナギ(混合飼育)は実験終了まですべて生き残ったため、2つの緑の線が重複している。

図7:天然ウナギと養殖ウナギの成長

a:平均体重の変化
b:合計体重(バイオマス)の変化
いずれも計測時点で生きている全ての個体の体重を計測している。

実験3 標識放流

自然環境下における、放流ウナギの成長・生残と天然ウナギ密度との関係を調査するため、天然ウナギの生息密度が異なる4つの河川(鹿児島県貝底川、静岡県波多打川、福井県三本木川、青森県長沢川)に養殖ウナギを同密度で放流し、3ヶ月後、1年後、2年後に放流ウナギの生息密度、成長、動きの観察を実施し、天然ウナギとの違いを分析したところ、以下の結果が得られました。これらの結果から、天然ウナギが生息する河川に放流された養殖ウナギは、種内競争の結果、成長速度が低下すると推測されます。

  • 2年後の放流ウナギの個体数密度は河川間で有意に異なりませんでしたが、放流時から94.9%減少しました。
  • 天然ウナギが少ない河川(福井県三本木川、青森県長沢川)の放流ウナギは、天然ウナギの多い河川(鹿児島県貝底川、静岡県波多打川)よりも有意に速く成長しました。

図8:調査河川の位置(左)、電気ショッカーによる採集調査(右)

図9:4河川における天然ウナギと放流ウナギの個体数密度の変化

点線は天然ウナギ、実線は放流ウナギの密度を示す。線の色は青森県長沢川福井県三本木川静岡県波多打川鹿児島県貝底川を示す。○は放流時の放流ウナギ個体数密度を示す。個体数密度は、採集個体数を本研究の中で推測した採集効率に基づいて補正してある。

図10:4河川における放流ウナギの成長速度

捕獲した放流ウナギの日間体重増加量。天然ウナギが比較的多く生息する静岡県波多打川、鹿児島県貝底川には体重が減少した個体が多く見られ、平均値も天然ウナギの少ない青森県長沢川、福井県三本木川よりも低かった。

研究の成果、今後の展開

一連の研究から、飼育を通じて養殖ウナギの種内競争の能力が低下し、天然ウナギに対して劣位となることが明らかにされました。このことから、天然ウナギが生息する水域に養殖されたウナギを放流することによって、放流効果が低下する可能性が示されました。放流ウナギと天然ウナギは遺伝的に同一の集団であるため、養殖ウナギの種内競争の能力の低下は養殖場における飼育そのものがその要因と考えられます。

養殖ウナギと天然ウナギの種内競争の能力の違いとともに、今回の放流方法では、2年間で約95%の個体数減少が観察されました。同様の結果は静岡県が行なった調査[3]でも確認されており、本研究で用いた手法での放流によってニホンウナギ資源を大幅に増大させることは、困難であると考えられます。今後は、放流の効果を改善するための研究として、例えば以下の項目が考えられます。これらの研究を通じて、現在行われているウナギの放流について、改めて検討を行う必要があります。

  • (1)放流後の生残と成長が期待できるウナギを入手することを目的とした、飼育手法の改善を検討する研究
  • (2)より放流に適した水域の環境条件を明らかにすることを目的とした、汽水域や湖沼など、今回の研究で対象とした小規模河川の淡水域以外の環境において行われる標識放流調査
  • (3)天然ウナギにとって有害な病原体の拡散など、ウナギ放流がもたらす負の影響に関する研究
  • (4)ウナギ放流の経済的なコスト・ベネフィット、現在のウナギ放流の制度が形成された歴史的背景など、社会科学的な視点からの研究
  • [3] 鈴木邦弘ら (2017)「伊東市小河川における養殖ウナギの放流後の動向」月刊海洋, 49, 560-567

謝辞

これらの研究は、鹿児島県ウナギ資源増殖対策協議会、水産庁鰻供給安定化事業のうち「効果的な放流手法検討事業」(平成28年度〜平成31年 (令和元年) 度)、科研費 (JP19KK0292, JP17H03735)、CREST (JPMJCR13A2)、中央大学の研究予算によって進められました。実験1および2では鈴木氏、山本氏、吉沢氏、吉永氏より、実験3では加藤氏、北原氏、望岡氏、吉田氏、静岡県より、それぞれご協力いただきました。ここに感謝します。

論文情報

実験1、実験2

タイトル
Agonistic behaviour of wild eels and depressed survival and growth of farmed eels in mixed rearing experiments
(和訳:天然ウナギの攻撃的行動と養殖ウナギの生残率と成長速度の低下)
DOI:10.1111/jfb.15047
著者
脇谷量子郎 (東京大学)・板倉光 (東京大学)・今吉雄二 (鹿児島県)・海部健三 (中央大学)
掲載誌
Journal of Fish Biology (ジャーナル・オブ・フィッシュ・バイオロジー)
掲載日
2022年4月27日

実験3

タイトル
Slower growth of farmed eels stocked into rivers with higher wild eel density
(和訳:天然ウナギ密度の高い河川に放流された養殖ウナギが見せる低い成長速度)
DOI:10.1111/jfb.15131
著者
脇谷量子郎 (東京大学)・板倉光 (東京大学)・平江多績・猪狩忠光・真鍋美幸 (鹿児島県)・松谷紀明 (青森県)・宮田克士 (福井県)・坂田雅之・源利文 (神戸大学)・矢田崇 (水産研究・教育機構)・海部健三 (中央大学)
掲載誌
Journal of Fish Biology (ジャーナル・オブ・フィッシュ・バイオロジー)
掲載日
2022年6月28日

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