田口優介氏

神戸大学理学部地球惑星科学科を卒業し、宇宙関連企業で活躍する田口優介さん (46歳) が10月中旬、神戸大学東京六甲クラブ主催の講演会で、「宇宙ロボットが拓く、商業宇宙時代」をテーマにお話しされました。商業利用が加速する宇宙開発の現状についての講演内容を交えながら、田口さんのキャリア、宇宙にかける思いなどを紹介します。

田口さんは講演時、宇宙関連ベンチャーの「GITAI Japan」で、宇宙ロボットの事業開発を担当していました。これまでにも国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」を運用する「有人宇宙システム (JAMSS)」で宇宙飛行士・地上管制官の訓練インストラクターを経験したり、出向先のJAXAでは金井宣茂宇宙飛行士らの訓練支援を担当したりするなど、宇宙関連の仕事に携わってきました。

子どものころの夢を追って

宇宙に関する仕事を志したのは、子どものころの憧れからでした。父親の仕事の関係で4歳から10年間、幼少期を米・ニューヨークとニュージャージーで過ごし、スペースシャトルの黄金時代を目の当たりにします。当時の米国の子どもたちがそうだったように、「宇宙飛行士はカッコいいな」と憧れを抱き、日本に帰国後、中学、高校と進む間も宇宙への夢を抱き続けました。とくに1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡の映像に感動し、「天文学を学びたい」と、進路を決めたといいます。

2005年に神戸大学大学院自然科学研究科博士課程後期課程を修了後は、民間企業への就職を選択し、システム開発などに携わります。しかし、宇宙への夢を追いかけ、2013年には有人宇宙システムに転職しました。その後は、宇宙ゴミを除去するサービスの「Astroscale Japan」、衛星打ち上げサービスなどを手掛ける「Space BD」などの宇宙関連ベンチャーに身を投じました。2019年5月にGITAI Japanに入社し、転職は6回を数えるといいます。

GITAIは2016年に設立され、宇宙空間での作業や国際宇宙ステーションでの実験ができる、自律型作業用ロボットを開発しています。既に国際宇宙ステーション内での技術実証に成功し、来年は宇宙空間での実証実験が予定されています。

GITAI ロボットアームIN1
GITAI ロボットアームIN1

宇宙ではロボットに優位性

神戸大学東京六甲クラブの講演では、宇宙は米国、ロシアなどが国家プロジェクトとして宇宙開発競争を繰り広げた時代から、国際宇宙ステーションの共同利用など協力時代に入り、「天気予報やGPSに至るまで宇宙技術は生活と切り離せなくなった」と話しました。さらに、最近は民間がロケットを打ち上げられるようになり、「2021年は宇宙旅行時代の幕開けといわれ、宇宙飛行士よりも宇宙旅行者の数の方が多かった」と、商業利用の現状を解説しました。

また、宇宙用作業ロボットの可能性については、「人間が宇宙に行くのは宇宙服だけでも何十億円もかかり、生活空間や物資も必要で、膨大なコストがかかる。ロボットは地上では手先の器用さは人間ほどではないが、宇宙では格段に安いコストで作業を提供できる。今後、新しい宇宙ステーションの建設や月面での作業など、ニーズは増えていく」と語りました。

最後に、後輩へのアドバイスとして、「科学、技術、工学、数学の4つの分野を総称したSTEM教育の必要性が言われているが、文系の学生も技術を学んで理解しておいた方がいい。英語もぜひ勉強してほしい」と話していました。

略歴

1976年、兵庫県芦屋市生まれ。1980年から10年間、米国に在住。2000年に神戸大学理学部地球惑星科学科卒業。2005年、同大学大学院自然科学研究科博士課程後期課程修了。同年、旧日立ソフトウエアエンジニアリング (現日立ソリューションズ) に入社し、システム開発や国際営業を担当。2013年、有人宇宙システムに入社し、2016年にJAXA出向。Astroscale Japan、Space BDを経て、2019年5月からGITAI Japanで宇宙ロボットの事業開発を担当。2022年11月より、国際宇宙ステーションの後継機となり得る、商業用宇宙ステーションを建造している米国Axiom Space社で、アジア太平洋地域における市場開拓を担当。

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