平成23年3月24日 出光佐三記念六甲台講堂

皆さん、博士学位の取得おめでとうございます。一言、お祝い申し上げさせていただきます。

今回、課程博士 211名、 論文博士 27名の合計 238名、内、 留学生の課程博士及び論文博士の合計 41名の方々が博士学位を取得されました。現在、先進主要国やアジア諸国においては、 国際競争力の強化のために博士号取得者を増加させ、世界から優秀な人材を獲得しつつある中、 神戸大学からこのように留学生を含め多くの方々に学位を授与できることを大変誇りに思っております。

さて、皆さんは、論文の作成や発表のために、日夜研究に没頭され、長年のご努力・ご苦労があったかと思いますが、 その甲斐があって、見事、学位審査に合格され、本日神戸大学の学位を授与されることとなりました。

また、ご指導に当られた指導教員の方々や職員の皆様に、そのご努力とご尽力に心から感謝を申し上げます。 さぞかし、ご本人はもとより、ご家族・関係者の皆様におかれましては、喜びもひとしおのことと存じます。

神戸大学は、開放的で国際性に富む固有の文化の下、「真摯・自由・共同」の精神を発揮し、世界最高水準の研究と人間性、 創造性、国際性、専門性を培う教育を目指してたゆまない営為を重ね、学問の発展、人類の幸福、地球環境の保全及び世界の平和に貢献してまいりました。 皆さんは、神戸大学が有するこの「高い文化的な香り」のする雰囲気の中で、世界に誇れる恵まれた教育・研究の場で、 研究のみならず成長過程における人間形成など多様な経験を積み重ね研鑽されてこられました。

神戸大学は、国際性をより積極的に推進するために、アジアやヨーロッパの世界各国に9か所もの海外同窓会や、 北京およびブリュッセルの2か所に海外オフィスを開設し、グローバル化社会に対応した卓越したネットワーク作りを推進してまいりました。 最近では、この1月にはタイ・バンコクにて、韓国、中国、マレーシア、ミャンマーなどからの留学生を含めた同窓会やフォーラムを開催しました。 また3月には、ベルギーのブリュッセルにおいて、欧州同窓会の開設と同時に昨年9月に開設しました「神戸大学ブリュッセルオフィス」 のオープニング記念シンポジウムの開催を実施してまいりました。

この記念シンポジウムに先立ち、神戸大学のヨーロッパとの学術交流の進展に大きな貢献をいただきましたEU大統領の ヘルマン・ヴァン・ロンプイ氏に神戸大学の名誉博士号を授与させていただきました。

そして、大統領のご挨拶では、「神戸大学は、このブリュセルオフィスを開設することで、世界に開かれた大学であることをすでに明確に示しております。 この会議のタイトルである『日欧教育研究連携の新時代』こそが将来に満ち溢れていることを証明していると確信しています。そして今日がまさしくその第1日目です。」 との感動深い「お言葉」を賜りました。

このような多くの同窓会やオフィスを利用したグローバルネットワークをベースにして、多くの国々との国際的な交流を深めることによって、 神戸大学の教職員、学生そして卒業生・修了生の方々が世界で活躍されるものと考えております。 今後、皆さんには是非とも積極的にご活用していただきたいと存じます。

今、我が国では、広く産学官にわたって活躍し、世界で牽引することができるリーダーとして、専門性、俯瞰力、 国際性、創造力などを備えた博士人材を育成する国家戦略プログラムを来年度から創設しようと計画されています。

これから皆さんは、大学、研究機関や企業など、それぞれの道に進まれますが、私は、現在求められている 「グローバル化社会における高度な博士人材」として、皆さんの培われてこられた専門知識や技術、 そして神戸大学で培われた国際性豊かな感性を基礎として発展されるとともに、より多くの分野でご活躍されるものと確信しております。

ところで、この3月11日、東北・三陸沖を震源とする国内観測史上最大のマグニチュード9.0の極めて強い「東北地方太平洋沖地震」が起き、 岩手、宮城県をはじめ九つの都県で地震と大津波による甚大な被害を受け、 その惨状に言葉を失うほどの衝撃を受けられたことは、皆さんもよくご存知のことと思います。

その被害規模は、人的、物的また経済的にも甚大な規模となり、現在もその被害に対して、国家を挙げて必死の努力が行われていますが、 復興への道のりは遠く、日本全体への打撃は未知の次元に陥りつつあります。

この震災に対しては、十分な備えをしてこられたはずの施設やシステムであっても、地震後発生した大津波の威力による市町村の破壊、 また、二重三重にも防御された原子力発電所の防御システムの破壊が起こり、危機管理が機能不全に陥るなど、 ことごとく専門家の方々が想定されていた範囲を遥かに超えた規模でありました。

このようなことは、平成7年に発生した「阪神・淡路大震災」時においても、当時想定されていた規模以上の揺れやライフラインの断絶などが生じたため、 家屋のみならず高層ビルや高速道路の倒壊、さらに大火災などが発生し、大惨事を引き起こしたことは我々の記憶に鮮明に残っております。

このように、地球上の自然界は、我々人類の予想を遥かに超える災害を引き起こす可能性があることを証明しています。 人類は、自然に対して如何に未熟であり無知であるかを痛感しますが、だからこそ、我々は絶えず未知との戦いに立ち向かい、 知恵と創造力を駆使して一歩ずつ課題を解決し、大災害を克服してゆく努力を積み重ねてゆかねばなりません。

皆さんは、本日、神戸大学の博士の学位を取得され、その能力を最大限発揮することが期待される高度な人材としての仲間入りをされた訳ですから、 このような困難で想定をくつがえすような問題に対しても、克服しうるに充分な知識や創造力を兼ね備えられているものと確信しております。 人類と自然との共生と調和を基本に据えた「新たな世界」を創造していただくよう尽力されますことを期待しております。

みなさんの今後のますますのご活躍を祈念して、博士学位取得のお祝いの言葉といたします。

平成23年3月24日 
 神戸大学長 福田秀樹